現在セリエAで好調をキープする、マッシモ・オッド監督率いるウディネーゼ。復活しつつあるフリウリのクラブに、オッドは何をもたらし、どう進化を遂げようとしているのだろうか。
12月から一般公開された赤ちゃんパンダ、シャンシャン(香香)。ずんぐりむっくりとした身体を、いっぱいに使って遊びまわる姿に魅了される人の数は多く、上野動物園は連日にぎわいを見せている。同園のホームページに掲載された「動物園の人気者ランキング」では、ホッキョクグマとアジアゾウを押さえて1位に君臨するジャイアントパンダ。まさに時の人ならぬ“時の動物”だ。
ところ変わってイタリアでは、ジャイアントパンダと同じ色、白と黒のシマウマが“時の動物”となっている。
「ゼブレッテ(小さなシマウマたち)」の愛称を持つウディネーゼは、現在セリエAで最も注目を集めるクラブだ。その魅力は、シャンシャンのような天真爛漫さにあるのではなく、統率のとれたチームとしての機能性の高さにある。そのチームを率いるのはマッシモ・オッドだ。
ウディネーゼを復活させたマッシモ・オッド
今シーズン途中11月21日に、ルイジ・デル・ネーリの後任としてウディネーゼの監督に就任したマッシモ・オッドは、前任者の時代に問題として取り上げられていた、4バックシステムとデ・パウルのポジションという2つのポイントを、3-5-2を採用することにより、一気に解消させた。
オッドはなぜ、4バックではなく、3バックを採用したのだろうか。
その答えは、このクラブのここ約20年間の成功が、3バックシステムによってもたらされたことにある。
1995年から、日本でもおなじみのアルベルト・ザッケローニに率いられたウーディネのクラブは、彼の代名詞でもある3-4-3でプレーし、その攻撃的なスタイルで3位に躍進した。この後チームを率いて好成績を残した、ルチアーノ・スパレッティ、パスクアーレ・マリーノ、フランチェスコ・グイドリンは、いずれも3バックシステムで、なおかつ攻撃的なスタイルを採用している。
これはジャンパオロ・ポッツォがオーナーになってからの、このクラブの特徴のひとつであり、長く3バックシステムを採用してきたため、それに適した選手を数多く保有している。実際に現在のチームでも、ダニーロやサミルは3バックでプレーしたほうが良さが出る選手たちだ。つまりオッドは、ウディネーゼが慣れ親しんだ3バックシステムを復活させることで、選手たちの能力を引き出そうとしたのだ。
オッドはさらに、二つ目の問題点だったデ・パウルのポジションを、サイドからセカンドトップへ移動させる。
前任者のデル・ネーリは4-3-3を採用し、デ・パウルに右ウィングでのプレーを要求した。中盤ラインまで下がって横へスライドするなど、守備の負担が大きいポジションに、チーム随一のチャンスメーカーはうまくフィットせず、能力を十分に発揮できなかった。その結果、批判の矛先は「ミラクル・キエーヴォ」を作り上げた監督に向けられることになった。
そこでオッドは、アルゼンチン人をセカンドトップで起用することで、負担を軽減。中央でプレーできるようになったデ・パウルは、攻撃における中心選手へと変貌し、2トップを組むラザーニャとともにチームをけん引している。
オッドの下で、その能力をいかんなく発揮しているのが、二人のチェコ人ヤングスターだ。スラヴィア・プラハから加入したヤンクトとバラクは、今やチームの屋台骨を支える不可欠な存在に成長し、移籍のうわさが絶えない。ヤンクトは今季3得点4アシスト、バラクは6得点2アシストを記録しており、数字からもその存在の大きさがうかがえる。
さらに、前述したとおりデ・パウルがセカンドトップに入った今、3人が近い位置でプレーできるようになり、それぞれの能力が発揮されやすい環境になったことで、攻撃の創造性がアップした。
このように、オッドは自らのスタイルを押し通すのではなく、現状のチームと親和性の高い、ウディネーゼにもともとあったシステムを復活させることで立て直しを図り、見事に機能させたのだ。
10クラブを渡り歩いたオッド。ペスカーラでは失敗も
今イタリアで最もホットな監督のひとりであるマッシモ・オッド。選手時代はチャンピオンズリーグとワールドカップで優勝を経験した、正真正銘の勝者である。しかし、そんな彼も、キャリアの序盤はなかなか芽が出なかった。
1993年にACミランのプリマヴェーラからトップチームに昇格したものの、1996-97シーズンから下部リーグのクラブへのレンタル移籍を繰り返す。そして1999年23歳の年にナポリに完全移籍。この時の監督は、厳格な指導で有名なワルテル・ノヴェッリーノだ。
その後移籍したエラス・ヴェローナでブレイク。ラツィオや古巣ACミランでは、ロベルト・マンチーニやデリオ・ロッシ、カルロス・アンチェロッティやマッシミリアーノ・アッレグリの下でプレーし、2013年に多くを勝ち取った現役生活にピリオドを打った。
すぐに指導者に転身したオッドは、13-14シーズンにジェノアのU-17で監督を務め、翌シーズンからペスカーラのプリマヴェーラの監督に就任する。
前途洋々に思えた監督キャリアにも、すぐに大きな試練が訪れた。監督としてセリエA初挑戦となった2016-17シーズンで、わずか1勝(それも相手の規定違反により与えられたもの)しか挙げられず、辞任を余儀なくされたのだ。
勝負の世界は甘くない。そのことを肌身をもって知っている元イタリア代表は、それでも自身の信じるスタイルを最後まで貫き通した。
通称クリスマスツリーシステムを採用したオッド・ペスカーラの、ボールポゼッションを高め、果敢に攻撃を仕掛けるスタイルが、多くのカルチョファンを魅了したことに疑いはない。しかし、いくら美しくプレーしても、得点できなければ勝てないし、勝てなければプロの世界ではいつかはお払い箱になってしまう。
現在のウディネーゼでの姿勢が、この辛い経験から導き出されたものであることは、想像に難くないだろう。
白と黒に、どのくらい自分の「色」を加えられるか。
21節を終えた時点で9位につけるウディネーゼが、リーグ後半戦でさらなる躍進を遂げるためには、指揮を執るオッドと選手たちとの相互理解をより深める必要がある。
特に攻撃面で、彼の「色」でもある、ディフェンダーからボールをつないでゴール前まで運んでゆくプロセスは、今後さらにこだわりを持って行われるはずだ。
そのために、まだ開いている1月の移籍市場で、オッドの色をチームに加えられる選手を、何人か獲得するかもしれない。興味深いことに、ウディネーゼのオーナーであるポッツォが所有する、プレミアリーグのワトフォードでも、このタイミングで監督交代が行われており、オッドと同じ3バックシステムを採用したマルコ・シルバが解任され、デル・ネーリと同じ4バックシステムを用いるハビ・グラシアが後任に選ばれた。両クラブ間で選手が移動する可能性大、と見てよさそうだ。
人間には決してなつかないというシマウマだが、フリウリのピッチをかけるゼブレッテは、巧みな手綱さばきでリードするミステルの下で、確実にひとつになっている。
すでに、その時点まで無敗だったインテルを相手に、ジャイアントキリングを起こしたオッド・ウディネーゼは、果たしてどこまで駆け上がることができるだろうか。