2018長崎県知事選 石木ダム 議論を求める声 高まるが… 

 「石木ダムは絶対必要だと言う人がいます。石木ダムは絶対必要ないと言う人がいます」-。昨年末、長崎市中心部の店舗などに、こうしたフレーズを書いたポスターが張り出された。約千枚、数種類あるが、いずれもこう記載している。「長崎のみなさん、一度立ち止まって考えてみませんか。#いしきをかえよう」

 県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダムは、事業採択から40年以上経過した今なお、反対地権者との対立が続く県政の懸案だ。それが2年ほど前から、無関心層に働きかける市民団体や企業の動きが活発化している。建設予定地での音楽ライブや住民のドキュメンタリー映画の製作…。さらに関係者は、県民に問題を再考してもらうため、賛否双方の意見を聞く公開討論会を開くよう県に求めていく考えだ。

 ポスターを張ったり、討論会開催の署名を募ったりしている若者グループ「N-DOVE」の共同代表、國貞貴大さん(31)は、知事選をこう捉える。「税金の使い方という視点でみれば、石木ダムは全ての県民に分かりやすい問題。議論する大きなチャンスだ」

 現職の中村法道候補(67)は「佐世保市の利水と川棚町の治水のため必要不可欠」と建設推進の立場。一方、新人の原口敏彦候補(56)は建設中止を掲げ、「県の言い分や根拠は完全に破綻しており、住民の合意を得られない事業は終わりにすべき」と主張する。

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 次の知事は、任期中に重大な判断を迫られる可能性がある。建設予定地に暮らす13世帯が抵抗したまま、県が工程表通り2022年度の完成を目指す限り、家屋の強制収用(行政代執行)が避けられない。

 ところが、そんな緊迫した状況にもかかわらず、県の訴える「必要性」に県民の理解が進んでいるとは言えない。

 告示前に長崎新聞社が実施した県内有権者500人アンケートにそれが表れている。石木ダムを「ぜひ必要」「どちらかといえば、あった方がいい」と答えた層は計20%にとどまり、「全く不要」「どちらかといえば、なくてもいい」の計36%を下回った。佐世保市に限っては、必要派の計32%に対し、不要派が計47%に達した。

 地権者の松本好央さん(42)は「『事業がよく分からない』という声もよく耳にする。(強制収用前の)今やらなければ話し合いの機会が本当になくなってしまう。(次期知事には)私たちの意見をしっかり聞いてほしい」と訴える。

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 だが、県の姿勢は議論に消極的なようにも映る。付け替え道路工事現場での阻止行動が過熱する中、両者は昨年8月に協議。工事をいったん止めた上で知事との面会を望む住民に対し、県は「面会と工事は別問題」と折り合わず、約3年ぶりの直接対話は実現しなかった。今月12日には反対住民が新県庁舎に出向き、話し合いを要請するも、職員の回答は「知事に伝える」だけだった。

 現在、家屋を含む土地の補償額について県収用委員会で審査中。中村候補はこれを理由に「強制収用をする、しないは言えない」と述べるにとどめている。

 工事現場では今も反対住民が抗議を続け、その間隙(かんげき)を縫うように作業員が工事車両を動かす。盛り土の高さが上がり、見た目の景色はここ半年ほどで変わってきた。県によると、進捗(しんちょく)は予定より遅れているが、多くの工事車両が搬入され、ペースは上がっている。

 推進側も選挙後を注視する。石木ダム建設促進川棚町民の会の河野孝通事務局長は、中村候補の3選を視野に「強制収用なしにダムの完成は難しい。2期目までは地ならし。3期目には、しっかり決断をしてもらいたい」と話した。

付け替え道路工事現場(上)と新県庁舎での反対派の抗議行動のコラージュ

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