龍馬に「陰り」なし

 見るもの聞くもの、どれも珍しく〈海外のにおいがした〉と感興を語らせている。司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」で、坂本龍馬にとって長崎はとりわけ水が合う町として描かれる▲日本初の商社「亀山社中」を拠点にして-などと、いまさら言うには及ばないが、自由闊達(かったつ)な龍馬が水を得た魚のように時代の流れを渡った町、それが長崎だったろう▲龍馬ブームは明治期にもあったというから「竜馬がゆく」が世に出るまで無名の存在だったわけではないが、龍馬を維新回天のヒーロー、それに「歴史上の憧れの人物」の代表格に押し上げた一作には違いない▲ガリレオ、クレオパトラ、蘇我馬子などと並んで、龍馬までもが外されたという。教員の有志らでつくる研究会が、歴史教科書の本文で扱うべき「重要用語」を選び抜き、今の半分ほどにする案を先ごろ公表した▲あくまで入試で用語を出題するかどうかの基準というし、変更もあり得るし、文部科学省は案にノータッチで教科書検定に影響はないとする。龍馬が「教科書から消える」と決まったわけではなさそうだが、それでも案に首をひねる人だっているだろう▲教科書にあってもなくても、龍馬の名声に「陰り」はどうもふさわしくない。〈長崎はわしの希望じゃ〉。作中の龍馬の土佐弁よ、いつまでも。(徹)

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