〈時代の正体〉Jアラート「形だけの訓練」 神奈川県内一斉、疑問の声

 北朝鮮による弾道ミサイルの発射を想定し、県が主導して県内全33市町村が一斉に31日に全国瞬時警報システム(Jアラート)のサイレン音を鳴らす訓練で、茅ケ崎市と座間市が避難訓練も併せて行うことが、神奈川新聞社の調べで分かった。県内では5、6例目となる。一方、混乱回避を理由にアナウンスから「ミサイル」「避難」の文言を外す自治体もあり、目的と効果の不確かさも浮き彫りに。専門家は「形式的な訓練では意味がない」と指摘している。■周知が目的 訓練は同日午前11時に実施。各市町村の防災行政無線など屋外スピーカーで「このサイレン音は弾道ミサイルが日本に落下する可能性がある場合や、日本の上空を通過する場合などに流れます」「建物の中や地下に避難してください」などと説明し、サイレンを14秒間鳴らす。観光や仕事などで多くの人が行き交う横浜、川崎市は街中で混乱を招くとして、市役所や区役所内での再生にとどめる。

 各自治体とも実施の目的について「どのようなサイレン音なのか、住民に知ってもらうため」としている。「近隣自治体と足並みをそろえる」として実施を決めた自治体もある。■来庁者参加 サイレンと併せて避難訓練を実施するのが茅ケ崎、座間市。茅ケ崎市は原則、全職員が身を守る行動を取る。屋外にいる場合は建物か地下に避難。屋内では窓から離れる。近くに建物がない場合は物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭を手で覆う。市役所来庁者にも同様の行動を呼び掛け、公民館や図書館などにも協力を求めている。

 座間市は市役所内で職員らが訓練を行う。鎌倉市は「実効性のある訓練になるか疑問」として実施しない。

 放送内容について独自の対応を取るのは藤沢市。県は例文を示しているが、市民に混乱が生じかねないとして「ミサイル」と「避難」を含む一文を外して「国民保護サイレンを放送します」「これは訓練です」とだけ伝える。寒川町も町内に避難できる地下施設がないとして「避難」を呼び掛けない。■小学校でも 屋外スピーカーでサイレンを鳴らす31自治体の学校現場はどう対応するか。

 伊勢原市は10小学校の大半が避難訓練を行う予定で、茅ケ崎市防災対策課はすべての小中学校、公立保育園に避難訓練を行うよう協力を求めている。同市立小学校の校長は「子どもたちがサイレン音を知らなければ、万が一のときに自分の身を守ることは難しい。保護者の要望もある」として訓練を行う考えを示した。

 ほかの29自治体は自治体教育委員会として実施するとは決めておらず、基本的に各校の判断に任せている。横浜、川崎市以外の県立学校も同様の対応を取る。「サイレン音の周知が目的なので避難訓練までは行わない」と答える自治体が少なくなかった。

 サイレンが鳴らない横浜、川崎市内の県立、市立学校では訓練を行わない。

 政府は昨年4月、全国の自治体に弾道ミサイルを想定した避難訓練を実施するよう通知。これまで約130カ所で行われ、県内では平塚、横浜、相模原市と愛川町が実施している。市民に情報示すべき 自衛隊や米軍、アジア各国の軍隊の取材を続ける軍事フォトジャーナリスト・菊池雅之さんの話 Jアラートはいわゆる空襲警報。訓練とはいえ重く覚悟のいる判断だが、自治体にその認識があるのか疑問だ。実施の際は、避難の場所や方法、ミサイルの構造や危険性など詳細な情報を市民に示すべきだ。危険性の背景となる軍事情勢についての説明も必要で、形だけの訓練を実施しても意味がない。漠然と「訓練は必要」と言われても市民は混乱するし、逆に不安になる。「意味があるのか」という声が上がっても仕方がない。実績作りのためだけの訓練はやるべきではない。

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