米国ドローン市場の予測から日本市場の2018年を考える(後編) 欧米でドローンの展示会やニュースを発信しているCOMMERCIAL UAV EXPO社が、2018年の産業用ドローン市場に対する8つの予測を発表した。後編では、残る4つの予測と日本市場について考察する。

高い高度で長期耐久性飛行を実現(HALE:high altitude long endurance)

 プロペラを回転させ続けないと飛行を継続できないマルチコプターにとって、長時間の飛行は大きな課題となっている。この課題を克服するために、水素エネルギーや太陽エネルギーの研究も行われているが、2017年には具体的な解決策は登場しなかった。五番目の予測では、2018年は高い高度を長時間に渡って飛行するHALE(high altitude long endurance)の実現が期待されている。そのためには、マルチコプター以外の固定翼や飛行船に風船なども機体の対象となる。固定翼型UAVに太陽光発電技術を提供しているAltaDevices社のリッチ・カプスタ氏は「2018年には、太陽光発電を利用した小型のUAVが市場に投入され、HALEはとても注目される研究開発の分野になるでしょう」と予測する。
 日本では、太陽光発電を利用したドローンや固定翼機の開発は進んでいないが、米国や中国に台湾などでは企業や大学に研究機関などが、試作機を発表している。HALEの実現には、高い高度を長時間飛行するUAVに対する需要の高まりも必要。長距離飛行そのものが難しい日本の空域においては、2018年もHALEの分野に関する研究開発は進まない可能性が高い。

HALEの実現には固定翼と太陽光がキーテクノロジーになる

自律飛行の技術革新

 産業用ドローンは「空のイメージスキャナ」だと考えている事業者の多くは、現状の自律飛行には満足していない。予測の六番目では、その自律飛行の技術革新が起こると想定している。完全自動のドローン運用プラットフォームを開発しているアイロボティクス社のヤヘル・ノブ氏は「2018年には、ドローンの自律飛行は技術革新を達成する」と予測している。さらに「日常の業務でドローンを定期的に飛行させる企業では、ドローンのパイロットを雇用するコストの高さや、飛行精度の低さ、繰り返し発生する機器の誤動作、さらに人員不足などの課題を抱えています。まだドローンを採用していない企業でも、市場への参入を模索している場合には、人手による操作をスキップして、初めから自動操縦を採用する可能性も高いでしょう」とも話す。
 日本でも、ドローンの自律飛行に対する研究開発は進んでいるが、複数の制御システムが混在し、アプリケーションに互換性もなく、技術的に解決しなければならない課題は多い。加えて、実験や検証のためには、多くの許認可と充分な試験環境などが求められるため、個人や小規模な事業者が取り組むのは難しい。一方で、米国や中国では、最先端のITを利活用した自律飛行や自動運用への取り組みが加速している。この分野においては、2018年の日本発の技術は大きく遅れてしまう懸念がある。海外の優れた技術を取り込む動きが、日本でも加速していくだろう。

完全な自律飛行の実現が産業用ドローン市場を成長させる

いくつかのUTMが登場し運用を開始する

 目視外でUASを長距離に飛行させるためには、高度なUASトラフィック管理システム(UTM)の存在が必須となる。2017年には、UTMの実現に向けた実証実験が各国で行われてきた。米国では、NASAやFAAにグーグルやインテルなどの民間企業が協力して、技術能力レベル2から3に向けた技術開発に取り組んでいる。2018年は、技術能力レベル3(適度に人口が集中した地域での有人および無人操作の集団安全を確保するための協調的および非協力的なUAS追跡機能)が実現されると予測している。
 2017年にニューヨーク州政府が資金を提供した50マイルのUTM回廊プロジェクトで、UTMによる安全な飛行のためのプロジェクト(U-SAFE)を主導するグリフォンセンサー社のクレイグ・マルシンコフスキー氏は「パイロットプログラムの資金は発表されていませんが、5つの分野で資金が提供されると思います」と話す。つまり、UTM関連のプロジェクトに参加する米国の企業には、政府などから何らかの資金援助が行われるという。同社のU-SAFEプロジェクトも、ニューヨーク州政府からの資金が投入されている。U-SAFEプロジェクトでは、UASと全米の空域システムの統合を目指している。資金と人材の面で、米国では2018年にUTM関連の技術と研究が進み、年内には運用が始まると予測されている。
 日本でもUTMに関する研究開発は行われている。しかし、2018年中に実運用やサービスが提供されるかは不明。

長距離飛行を支えるU-SAFEプロジェクト

対ドローン技術の重要性が増す

 予測の最後は「対ドローン技術」の成長。ドローンの飛行性能が向上し、コンシューマ向けの機体でもプライバシーの侵害や重要施設への攻撃などが可能になるにつれ、防衛策の強化が求められている。こうした背景から、2018年は2年前に商用ドローンが急成長したように、対ドローン技術やサービスが成長すると予測されている。ドローン防御を導入する機関は、官公庁や軍事関連になるケースが多いことから、安定した市場を獲得できる可能性もある。一方で、スタートアップ企業が軍事や防衛産業に携わる大企業と競争していくことは困難と思われ、レポートではアイディアで勝負するべきだと提案している。ドローン市場の分析レポートなどを発表しているドローンインダストリーインサイト社のケイ・ワクウィッツ氏は「対ドローン技術は、さまざまな方法で不正なドローンを検出し、追跡して対応します」と話す。また「商業利用に向けて柔軟なソリューションが提供される可能性もある」と予測する。
 日本でも、ネットを飛ばしてドローンを捕獲する装備などが紹介されているが、まだ本格的な「対ドローン技術」を採用する動向はない。しかし、2020年の東京オリンピックに向けて、警察などの警備機関が中心となって、国内外のソリューション採用は加速する。そのときに、国産技術が登場するのか、海外製品が主流になるのかは、まだ未知数だ。

対ドローン技術が2018年に成長を遂げる

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