三冠獲得からの後退 名門ガンバ大阪に今何が起きているのか?

3年前、J1昇格初年度にして国内三冠手にしたガンバ大阪。圧倒的な攻撃力と統率された守備でJリーグを席巻した。 しかし、2017年のJリーグ最終順位は10位に留まった。 3年という時間にガンバ大阪に何があったのか?個人的な視点で解説をしていこうと思う。

2014年、とんでもないことをやってのけたチームがあった。ガンバ大阪だ。とんでもない事とは2000年に鹿島アントラーズが達成して以来の偉業である、国内三冠を達成したことだ。それに加えて当時、ガンバ大阪はJ2から昇格したばかりだった。J1に昇格したシーズンに国内3冠を達成したのだ。これは長いJリーグの歴史の中でも初の出来事であった。

タイトルを獲得しカップを掲げるガンバ大阪選手一同

それからたった3年後。ガンバ大阪は10位でリーグ戦を終えた。タイトルの獲得はなく、後半戦は明らかにチームが機能していなかったように見えた。今日は3年間という時間の中でガンバ大阪に何が起こったのか?個人的な視点で記事を書いていければと思う。

データから見るガンバ大阪の変化

現在と過去のガンバ大阪。チームとして公正に比較するために僕はデータを見比べていた。その中でも、圧倒的に気になったのはズバリ【得失点差】だ。(※得失点差とは得点の数から失点の数を引いた数字である。必ずではないが、基本的には数値が高いほうが得点が多く失点が少ないことを意味する。)

2014年シーズンの得失点数は「+28」。2017シーズンは「+7」だった。約「20」の差がある。詳しくデータを見ていくと得点、失点が共に約10ずつ落ち込んでいることがわかった。単純な比較としてガンバ大阪は点が取れなくなり、守りきれなくなっているのだ。今回は個人的に感じた攻守における主な原因をピックアップしていきたい。

スタメンから見るガンバ大阪の変化

攻守の原因分析の前に両チームのスタメンと特徴を書いておく。まずは2014年のガンバ大阪のスタメンの選手を見てみよう。右サイドの阿部選手(現在川崎でプレー)は大森選手(現在神戸でプレー)と相手によって併用されていたが、基本的なスタメンはこの形だった。

2014年優勝時のスターティングメンバー

当時のガンバ大阪の大きな特徴は中盤の4人の選手だったと思う。足元の技術が非常に高く、かつ走れる選手が配置されている。その為、ビルドアップ能力が高く確実にボールを前に繋いでいける。だがそれだけではない。当時のガンバ大阪は守備が強固だった。(※2014年シーズンにおいて年間31失点でリーグ1位タイの結果だった。)

中盤の4人はハードワークを得意としている上に、真ん中に守備面でリーダーシップと経験豊富な今野がいた事で臨機応変に守備体系を変化させ、ことごとく守備の網にかけていた。中盤の強烈なボール奪取能力があったため、DFラインでボールを奪える可能性が他チームよりも高かったためと推測できる。そしてボール奪取の次の瞬間には、遠藤から繰り出される素早いショートカウンターに前線の強烈な2FWが鋭く反応。下位チームとの対戦では圧倒的な技術によりボールを保持し高い決定率で勝利をもぎ取り、上位チームとの対戦では守ってカウンターという形がことごとくハマっていた印象だった。

そして今季最終戦のガンバ大阪のスタメンがこちら。

2017年の基本スターティングメンバー

昨年度のガンバ大阪は若手の台頭もあり、メンバーやフォーメーションを固定できなかった感がある。これ自体は決して悪いことではない。その為、年間のベストフォーメーションの選考には頭を悩まされたが上記選手を選考した。

他にも、堂安 律(シーズン途中に海外に移籍)・泉澤 仁・アデミウソン・オ ジェソク・呉屋 大翔など素晴らしい選手もいるが、リーグ戦終盤での出場機会を判断基準にしメンバー選考は上記とした。

いざメンバーを見比べると実は3冠獲得時のメンバーと2017年シーズンのスタメンの選手では約半分の選手は変わっていない。そして井手口や初瀬などスタメンを勝ち取った新しい選手の質も下がっているとも思わない。しかし最終的な結果で見たときには大きな変化が生じている。

選手の組み合わせ、戦術、選手個人の特徴の違いでこれほど結果が変わるのがサッカーというものなのだ。本当に興味深い。では何が変わったのか?個人的意見だが、サッカーをより一歩楽しめるように要点を書いていこうと思う。

左サイドで圧倒的な存在感を放った宇佐美貴史

攻守においてガンバ大阪が弱体化した1つの要因として「宇佐美貴史」という強烈な個の存在の有無だと思う。強いチームの要因の1つとして、左サイドの高い位置でのボール保持が出来るか?を見ながら観戦すると1段サッカーを面白く見ることが出来ると僕は思う。チームの中でドリブルの技術が高い選手がこのポジションを任せられることも多い。

なぜ左サイドでのボール保持が重要なのか。説明する。右利きの選手の場合、一番ボールを失いづらいポジションが左サイドの高い位置なのだ。言語化するのが非常に難しいのだが、フィールド上でドリブルでのアクションが一番活発であり、ドリブルの成功率も高い(ボールを奪われづらい)スポットが左サイドの高い位置なのだ。

単純に相手の右サイドバックの守備力より左サイドハーフやウイングの選手のボール保持能力が勝っていれば、ボール支配率は上がり優位に試合を進めやすい。基本的にボールを保持できていれば、失点数は少なくなり得点は多くなる傾向がある。宇佐美はこのボール保持能力が圧倒的に高かった。加えてポジションを左サイドに固執せず、状況に合わせて変幻自在にポジションを変えていく。中盤からパトリックにロングフィードを合わせ、フィジカルでボールを収めた瞬間に開始される中央からの宇佐美とのコンビネーションは脅威だった。

今シーズン宇佐美に変わりそのポジションを任せられていたのが泉澤仁と高木彰人だった。正直、若くしてバイエルンから声がかかった日本の至宝と比べるのはおかしな話だが、左サイドにおける圧倒的優位性を失ったことがガンバ大阪弱体化の最大の要因だと思う。現に宇佐美が海外へ移籍した2016年シーズンから、得点数・失点数・年間順位は下がる一方なのだ。

右サイドで地位を築き始めた左利きの堂安も海外に移籍し、ガンバ大阪はボールを保持できるドリブラーを失った。ボールを奪っても収める場所がなく、長沢の高さを活かした単調な攻撃になってしまったことが攻守におけるミスマッチを生んでしまっていると分析した。

2018シーズン ガンバ大阪に必要なこと

2017シーズンを失点数で振り返ると、「41失点」とリーグ6位の数字を残している。井手口や三浦等代表にも名を連ねる選手が守備で奮闘を見せていたため、守備の大崩れは起きなかった。その為、攻撃面での改善があれば上位に食い込むことも大いに可能だろう。

そのためには若い高木・呉屋・そしてアデミウソン等が左サイドでの優位性を形成出来るかが大きな2018シーズンのPOINTになるだろう。井手口も海外に移籍し、大黒柱遠藤保仁も体力的限界は近いかもしれない。台所事情は苦しいが、名門復活へガンバ大阪の左サイドに注目してサッカーを見ていただきたい。

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