【高校野球】選抜決勝を戦った2人の主将のその後 交わる運命に抱く思い

慶応大に進学する大阪桐蔭の福井章吾【写真:沢井史】

大阪桐蔭・福井と履正社・若林がともに慶大進学、チームメイトに

 大阪でだけでなく、昨春の選抜高校野球決勝でも頂点を争ってきたライバル校のキャプテン同士が、今春、揃って慶應大学の門を叩く。大阪桐蔭、履正社いずれも野球部から慶大に進むのは初めてで、これからどんな歩を進めていくのか早くも注目が集まっている。

 福井章吾(大阪桐蔭)と若林将平(履正社)。実は2人は高校進学前から交流があった。中学時代、福井は箕面ボーイズ、若林は大淀ボーイズに所属。同じリーグで顔を合わせる機会があっただけでなく、共通の友人を介して出かけることも幾度かあり、中学3年の夏には一緒に甲子園を見に行ったこともある。そんな2人が3年後、ライバル校のキャプテン同士となって甲子園で再会し、日本一を争い、大阪でもしのぎを削り……。そして大学ではチームメイトとなる2人は、今どんな思いで大学生活に向けて準備を進めているのだろうか。

 卒業式を控えた1月中旬。少しぽっちゃりした姿の福井が取材の場に現れた。

「ずっと受験勉強に集中していたので、ほとんど体が動かせていなくて……。体がぼてっとしてしまったんですけれど、年末から徐々に体を動かして、年が明けてからはほぼ毎日練習に出ています」

 後輩たちに混じって体を動かし、年明けの5日のチーム始動時もグラウンドに顔を出した。西谷監督にお願いして後輩と共にノックにまじり、時には後輩のボールを受けにブルペンに入ることもある。

「同じメニューをこなしながら、後輩のサポートをする時もありました。自分もこれからしっかり野球ができる態勢にできるようにしています」

 受験勉強から解放されたのは昨年12月中旬。それまでは学校を終えると机に向かい、家に着くのは夜。帰宅しても資料に目を通し、明日の予習のため再び机に向かう日が続いた。現役時は寮生活で野球のみとずっと向き合う日々。ストイックな毎日は当時とさほど変わらなかった。

主将としての“カラー”は対照的、選抜決勝で感じたこと

 ライバルがいれば成長できる、とはよく言うが、大阪桐蔭と履正社は世間から見ても練習環境など、様々な角度から比較されることも多かった。福井は若林をどのような存在として見てきたのだろうか。

「(若林)将平は敵なんですけれど、お互い苦労とかチーム作りの中の考え方もあるので、どっちが良いとか悪いではなく、カラーが違う中でお互い頑張ってきた者同士。将平は履正社というチームの中でそのカラーを生かしたチーム作りに頑張ってきたんだと思います。将平は体が大きくて長打力があって、自分にはないものもあるので、そのあたりは尊敬の目で見ていました」

 キャプテンとしてのカラーは対照的だった。細やかなアドバイスと共にハートで引っ張る福井に対して、若林は多くを語らず背中で引っ張るタイプ。若林は福井のキャプテンシーそのものを羨望のまなざしで見てきた。

「センバツの決勝でもベンチを必死に鼓舞しながら声を掛けている姿を見て、素直にすごいなと思って。中学の時から人間性の大きさは感じていましたけれど、実際に接しても人としてのすごさはあらためて感じます。夏に(府大会準決勝で)負けた時も、結局はそこの差だったのかなと今でも思ってしまいます」

 若林も受験に集中していた頃は練習をセーブしていたが、徐々にグラウンドに出て体を動かし、年が明けても上京ギリギリまでグラウンドで練習してきた。今思うと、まさか常に対角線上にいた福井と同じ大学に進学することになるとは夢にも思わなかったと笑うが、新たな目標や楽しみもできた。

舞台は甲子園から神宮へ、再びライバルたちと火花を散らす

「自分に持っていないものを福井は持っていますね。それは羨ましい部分もありますが、福井にないものを自分も持っていると思います。2人で力を合わせる部分は合わせて、4年間しっかりプレーしていきたいです。自分は初めての寮生活。どうなっていくのか分かりませんが、自分が成長していけるためのとても良い環境だと思います。4年になったら、福井がキャプテンになって欲しいですね。自分は……キャプテンはもういいかなと(笑)」

 同じ東京六大学リーグでは、大阪桐蔭のエースだった徳山(早大)、履正社のエース・竹田(明大)、捕手の片山(立大)などチームメイトやライバルとまた同じ土俵で対戦する。大阪で火花を散らした仲間やライバル同士で、今度は学生野球の聖地を盛り上げるつもりだ。

 目標や夢へ胸を膨らませながらも、福井は最後にこう言って表情を引き締める。

「甲子園で決勝に出たキャプテンが来ると、周囲のハードルが高くなっていると思います。期待は大きいと思いますが、高校での経験を生かして、また4年間日本一を目指していきたいです。大学は自主練習が多いと聞いているので、周囲に流されず、自分のやるべきことをブレずにやっていくことも大事。大学ではリーグ戦を経て日本一になれるチャンスが8回あるので、そのうち3回ぐらいはリーグ優勝して日本一に挑戦したい。早慶戦にも早く出てみたいです」

“野球界の元旦”と言われる2月1日はプロ野球のキャンプインの日。同じくして故郷を離れ、新たな野球人生のスタートラインに立つ18歳がたくさんいる。激戦地・大阪で培った競争心を武器にし、2人の未踏の地での戦いが間もなくスタートする。

(広尾晃 / Koh Hiroo)

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