五島・富江におでん屋開業 埼玉出身、演歌好きの25歳・伊藤さん 支援制度フル活用

 埼玉出身で2016年に長崎県五島市へ移住した伊藤睦月さん(25)が1月3日、富江町の商店街にあった空き店舗でおでん屋「富む」を開業した。市や市商工会の補助制度をフル活用して覚悟を決めた島での新たな一歩。店では「大好きな」演歌を流し、坂本冬美のポスターをずらりと並べるなど、年齢が離れた人たちの心も早くもつかんでいる。「地域に愛される、気軽に来られる店にしたい」と意気込む。

 埼玉県蕨市出身。高校を卒業後、東京の調剤薬局に就職。都会で暮らしたが、10代の頃から「将来は遠くに拠点を移したかった」。故郷も東京のベッドタウンで「近くに海も山もなく、自然が好きな自分にとって不満だった」。仕事が休みの日には「ただ田舎に行くという遊びをしていた」。

 演歌や酒が好きで、東京のころは1人で赤ちょうちんを訪ね、安い居酒屋などで一回りも二回りも上の人とも仲良くなった。16年4月に立ち飲み屋で偶然会った五島出身者から島暮らしを勧められ、同7月に初めて訪問。紹介された人たちを訪ねたほか、自らがそこに住む姿を想像しながら、公共職業安定所(ハローワーク)や不動産屋も回った。「いい」。同9月には島へ移り住んだ。

 3カ月間賃料無料となる市の短期滞在住宅を利用した後、補助金を活用して改修した古民家へ引っ越し。昨年10月まで島内でほかの仕事をしながら独立の可能性を探り、「演歌の雰囲気に合うし、世代に関係なく来てもらえそう」と、開業した。経営相談をはじめ店舗賃料が3カ月間無料となる市商工会富江支所の支援も大きかった。

 若くしての挑戦に「正直びびっていた面もあった」が、島に移住して1年以上たった今は「いろんな方の助けの上で成り立ってる。五島じゃなければ、やっていなかった」と振り返る。

 現在も10種類以上の具材を仕込むが、今後は30種類を目標に全て富江町内から仕入れ、おでん以外の商品も増やす予定。「お客さんから、自分の知らない世界の話を聞けるのが面白い。ずっと続けたいですね」と充実した笑みを浮かべる。

 営業時間は昼が午前11時~午後2時、夜が午後6時~10時。不定休。

おでん屋をオープンした伊藤さん=五島市富江町

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