<森林保全>山の集落、水がめ支え 山北・共和地区が荒廃に危機感

 900万人を超える県民の暮らしに欠かせない豊かな水がめを支える水源林。その保全は誰が、どう担っているのか。90世帯、人口わずか約190人の山北町共和地区。人口減の進む町内で最も居住者が少ない山あいの集落で、林業の再生も視野に入れた地道な試みが続く。

 高さ数十メートルもある木々がうっそうと茂る森の中に、車1台がやっと通れるほどの細い道が延びる。傍らに横たわるスギやヒノキの丸太。男女4人が声を掛け合いながら丸太を製材機に載せ、縦に切断しては断面を確かめている。

 昨年12月半ば、山梨、静岡県境に位置する人口約1万人の山北町。作業していたのは、町の中心部に近い共和地区の人々だ。

 住民の一人でNPO法人「共和のもり」の井上正文代表(73)が説明する。「虫の食害に遭った間伐材の有効活用に向け、使える部分と使えない部分を見極めている」 スギノアカネトラカミキリの食害で穴の開いた「アカネ材」。木材としての価値が低いと見なされ、裁断されて燃料チップにされてしまうことが少なくないが、「強度は被害に遭っていない木材と同じ」。川崎市内の企業と連携し、建材などに生かす道を探っている。

 試みの背景にあるのは、価格競争力の低い国産材が輸入材に押されて活用されにくいという経済的な構図だけではない。「安い県産材で家を建てられるようになれば、森の保全に興味を持ってくれる人が出てくるのではないか」 町内の9割を森林が占める山北町には、県が水源林と位置付けた森林約1万9700ヘクタールの2割が存在。三保ダムのある丹沢湖がたたえる豊かな水の供給源となっている。

 その一角を占める共和地区の森では、住民などによる共和財産区のメンバーが間伐や植樹などの維持管理を担ってきた。森を生かした地域振興策に加え、より持続的で域外にアピールできる活動にも取り組もうと、2012年7月にNPO法人を設立した。

 水源林を守る意義を訴える出張授業などを開始。町と県が協定を結んだ川崎市の住民を招いた間伐体験などを定期開催し、都市部の住民に水源地への理解と協力を求めている。大野博世事務局長(67)は「林業に興味を持つきっかけになれば」と担い手確保に結び付く効果を期待する。

 県によると、企業や森林組合に所属する県内の林業就業者数は、1970年度の692人から年々減少。ここ数年は300〜400人で推移しており、再生への展望は開けていない。

 人手不足などで手入れの行き届かない森林では、日射が届かずに下草が減り、裸地化することで雨水を保持する機能が損なわれる。共和地区の人々も「台風や降雪のたびに倒木がある」ほど荒れた山の現状を目の当たりにしてきた。

 財産区内の裸地などで生育の早いクヌギ、コナラなどを植える作業にも乗り出し、災害対策と雇用づくりの両立を目指してもいるが、担い手不足は解消されないままだ。

 井上代表は率直に言う。「活動継続に向けた資金や賃金を捻出する有効な方法は見つけられていない。それでも誰かが取り組まなければ、地域が衰退しかねない」。危機感も胸に木々に向き合う。

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