笑えない現実

 5年前のこと、全国の都道府県のうちコーヒー店チェーンのスターバックス(スタバ)がないのは鳥取県だけになった。平井伸治知事はしかし、逆手に取ってこう言った。「スタバはないが日本一のスナバはある」▲スナバとは、もちろん鳥取砂丘。やがて地場企業がスタバをもじった「すなば珈琲(コーヒー)」という店を出し、とうとうスタバも鳥取に進出した。第1号店の前に千人の列ができた盛り上がりをご記憶の方もいるだろう▲弱み、引け目を前に押し出して話題をさらう。弱々しいようでいて、実はしたたかな売り文句ならば他にもある。〈おしい! 広島県〉〈のびしろ日本一。いばらき県〉〈島根は、もう本気出しつくしました〉▲ここ数年、自治体のご当地PRで「自虐ネタ」が目立っている。観光にしても移住にしても、地域間競争の色合いが強まる昨今、生き残るための知恵であり一策だろう▲いやはや、現実はこんな具合で-と身を低くして言いながら、でも未来は決して暗くないとメッセージを送る。笑いを誘う自治体PRはどこか選挙戦の訴えに似ている▲本県の知事選はきょう投開票。自虐ネタほどに関心を集めたかは置くとして、人口減少への対処や大型公共事業の是非や、たやすく笑いにできない現実が選挙で語られた。きょう私たちが未来を選ぶ。(徹)

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