1500人死傷に8千棟が吹き飛ぶ…北朝鮮「謎の大爆発」事故

国境の川・鴨緑江(アムロッカン)はさみ中国の対岸に位置する北朝鮮の新義州(シニジュ)市で1月31日、大規模な火災があったようだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が、その様子を動画とともに報じている。

中国側の現地住民は、RFAに対し次のように語った。

「当日の午前10時頃、鴨緑江の川辺を散策していたところ、川向こうで突然、黒煙が立ち上り、あっという間に新義州一帯の上空を覆ってしまった。黒煙の高さは100メートル以上にもなった。2時間ほどで下火になったようだが、あの勢いと規模からして何らかの爆発が原因ではなかったかと思う。人命被害も多かったのではないか」

一方、これとは別の地元住民2人が、それぞれ次のような証言を行っている。

「だいぶ前にあの辺に行ってみたことがあるが、当時は化学肥料の工場があった」(元公務員のAさん) 「あそこには、近くの烽火(ポンファ)化学工場で精製された石油の貯蔵施設がある」(Bさん)

いずれも不確かな記憶に基づく証言であり、火災の原因と関係あるとは限らない。ただ、「化学肥料」「石油」と聞くと、思い浮かぶことがある。化学肥料に使われる硝酸アンモニウム(以下、硝安)と燃料油が混ざると、「硝安油剤爆薬」というシロモノに化ける。北朝鮮の龍川(リョンチョン)では2004年4月、これが大爆発して8000棟の建物が吹き飛び、1500人が死傷する悪夢のような大事故が起きているのだ。

北朝鮮では、このような惨事が度々起きている。たとえば中国との国境地帯にある慈江道(チャガンド)の江界(カンゲ)市で1991年、ミサイルや砲弾を製造していた軍需工場が大爆発を起こし、市街地の相当部分が壊滅。1000人を超える死者が出た。

しかしそれにしても、2004年の龍川での事故には妙な点が多かった。硝安油剤爆薬はそう簡単に爆発しないので、起爆にはダイナマイトなどほかの爆薬を使った雷管が必要になる。さらには、発生現場が直前に特別列車で中国を訪問した金正日総書記の、帰路上にあったのだ。そのため当時は「暗殺未遂説」も出たのだが、それを否定する見方もあり、真相はいまだミステリーのままだ。

だが、RFAが昨年秋に伝えたところでは、北朝鮮当局は近年、硝酸アンモニウムの生産と輸入を制限しているという。理由はもちろん、金正恩党委員長の身の安全を図るためだ。そしてそのおかげで、そうでなくとも足りない化学肥料がより不足し、農業の堆肥への依存度が高まり、国民が寄生虫に感染するリスクが高まっているのだ。

金正恩氏は、自分が国民から「嫌われない政治」を心がけるだけで、身の安全も国民の健康も向上するということに、早く気付くべきなのだ。

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