第7回:捨てるか生かすか、それが問題だ(適用事例1) 備蓄管理における解決策を探る

備蓄品の管理をしっかりしないと、いざという時大変なことに(写真はイメージです)

■あり得ない!とはまさにこのこと

Tさんの会社では、2011年の東日本大震災以降、万が一に備えて非常用食料を備蓄するようになりました。顧客や取引先からは防災意識の高い企業として一目置かれているのですが、フタを開けてみればなかなか苦労することが多いのです。

同社のBCPには「非常時には社内にストックしてあるインスタント食品を帰宅困難者に提供すること」と記載されていますが、非常時に確実に備蓄品を分け与えられるかどうかはまったくもって未知です。というのは、非常用備蓄とは言いつつも、それは以前から従業員用に買いだめしておいたカップラーメンのことにすぎなかったのです。

カップラーメンが備蓄品として“認定”されるまでは、いつでも誰でも小腹がすいた時に段ボールから取り出して食べることができました。たまに段ボールをのぞいてみて「だいぶ減っちゃったねえ…」と思ったら、総務に頼んでまた1箱注文して取り寄せる。その繰り返しでした。ではBCPの備蓄品として認定された後はどうなのかと言えば、「備蓄とみなすには少し少なすぎやしないか?」ということで、いつもは1箱ストックしてあったものを2箱に増やしただけです。数量や消費の管理がかなりアバウトであることは、これまでと何ら変わりありません。

ある日の夕方、Tさんは「仮にいま大地震が起こって、社内にいる社員たちが帰宅できなくなったら、現在の備蓄で足りるだろうか?」との疑問を抱きました。給湯室へ行ってカップラーメンの入った段ボール箱を覗いてみると、なんとそこには1箱は使い切り、残りの1箱にはカップラーメンが数個残っているだけだったのです。

「ありえない…ダメだこりゃ!」。Tさんは落胆しました。

■帰宅困難者を栄養失調にさせないために

ここはひとつ、きちんとルールを整備して、帰宅困難者がいつでも安心して非常時備蓄の提供を受けられる仕組みを作っておかないといかんなあ。Tさんはこのように決意し、PDCAで解決することにしたのです(ここでは食料と水を中心に考え、毛布や簡易トイレ等については言及しないものします)。

Tさんはまず、プランの作成に先立って、各部署に備蓄品の現状に関するアンケートをとりました。「カップラーメンだけではカロリー不足。帰宅困難者が栄養失調で帰宅できなくなったらどうする?」「管理の仕方がお粗末」「平時には給湯室で湯が沸かせるが災害が起これば使えない」など、様々な意見が出ました。そしてこれら現状の問題点を踏まえ、次のようにプランを作成しました。

【目標】「備蓄品目と数量の適正化及び保管方法の標準化」です。シンプルな目標ではありますが、ここにはいくつかの下位の目標が織り込まれています。これらについては、次の「解決策」で具体的に実現することになります。

【目標を達成するための対策】PDCAの「Do」と「Check」で実行・評価・検証する内容です。次の3点を考慮して行うことにしました。
・品目と数量の見直し(現行のままでは非常時に不足する可能性が高い)
・更新管理方法の確立(備蓄品の補充・入れ替え時期、ムダにしない処分方法)
・保管場所(安全かつ取り出しやすい場所)の選定と備蓄品管理担当の決定

これらはいずれも短期間に完了できるものですが、単に3つの作業項目を終えたというだけでは「Check」で評価・検証することはできません。本当の「Check」は、備蓄品が適正に管理されているかどうかを1年かけて追跡し、その結果を標準的な手順として採用できるかどうかにかかっているからです。

■最初の1年目が「Do」の正念場

このケースでは、「Do」を2つのステップに分けています。一つは備蓄品管理の前提となる「品目と数量」の見直し、「更新管理方法」と「保管場所と管理担当」を決めること。もう一つは、これらの決定事項が順守されるように1年かけてモニタリングすることです。一つ目については「Plan」のステップに含めることもできますが、ここでは「Do」の一環と見なしています。

備蓄品の3つの管理要件については、それぞれ次のような対策案を導きました。

まず品目と数量の見直しについて。品目についてはカップラーメンの他に缶入り乾パン、缶詰、カロリーメイト、ペットボトルの水を加え、数量については災害時に帰宅困難に陥るであろう遠距離通勤者の人数分を見積もって2日分を購入しました。また、湯を沸かすアウトドア用のガスストーブや割りばし、紙皿、紙コップも用意しました。

次に備蓄品の更新管理方法。乾パンや缶詰は開封せずにそのまま保存し、将来消費期限が近づいたら会社の行事等で社員に配ることにしました。一方、比較的保存期間の短いカップラーメンやカロリーメイト、ペットボトル水については、いつも通りローリングストック法(消費した分を随時補充する方法)で商品の品質を維持しました。

保管場所と管理担当も、とくに問題なくクリアしました。すべての備蓄品が保管場所に収まってからは、定期的に担当者が備蓄品目と数量の抜き打ち検査を行ったほか、保存期間の短い品目については防災訓練を行った後に希望する社員に分配しました。

さて1年が経過し、「Check」の時期がやってきました…

■標準化はスタートラインに過ぎない
Tさんたち「Check」の評価・検証チームは、次の観点からチェックを試みました。

(1)備蓄品の保管場所は安全及び衛生面で適切であったか?
(2)帰宅困難者の想定人数分の備蓄数量は常時足りていたか?
(3)賞味期限の短い品目の入れ替えは、タイムリーかつスムーズかつムダなく行われたか?

(1)については、スチール棚に備蓄品を入れた段ボールを直置きにしたままでは湿気が心配との意見があり、すのこを敷くことにしました。(2)についてはローリングストック法で管理している品目は不足するどころか、むしろ、数量が少し過剰気味にストックされていることが分かり、もう少しきめ細かな管理が必要との意見で一致しました。(3)はまったく問題なく行われました。

結果として今回のPDCAで計画した対策は、野放し状態だったこれまでよりは、一歩進んだものであることが実感できたと言えます。「Act」の判定は次のとおりです。

(1)や(2)の改善点については早急に対策を講じる。この先3年間は、この方法を標準的な備蓄管理手順として取り入れる。ただしこの方法の継続によって、管理品質が低下してきたり、新たな問題や課題が出てくるようなら、再度PDCAサイクルに取り込んで解決を図るものとする。

(了)

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