恵方巻きの行く末は

 夢中で読んだのは遠い昔だが、今もくっきり浮かぶシーンがある。漫画家の水島新司さんの「ドカベン」で、穏やかな主人公の山田太郎が珍しく物申す。「一粒の米には7人の神様がいる。一粒でも残したらバチがあたる」▲一粒に何人の神様がひしめき合っているのか、どうやら諸説あるらしいが、似た話は多くの人が聞いた覚えがあるとお察しする。ほら、最後の一粒まで食べなさい、と▲気の優しい山田太郎、通称ドカベンのせりふが頭をよぎったのは、節分の後になって節分の話題に接した時のこと。近年、節分に付きものになった恵方巻きを巡る話だ▲売れ残った巻きずしが全国的に大量廃棄されたという。飼料にされたとも聞くが、巨大容器にぎっしりと、無造作に詰められたのをニュース映像で見て、がくぜんとする。ドカベン君ならばいきり立ったろうか▲生ものだからほぼ当日限りで売らないといけない。前年よりも売り上げを伸ばしたい。欠品はNG。とすれば一体どれほどの品ぞろえをすべきか。売る側は考えあぐねたに違いないが、そろそろ「過剰」を見直す頃かもしれない。言うは易(やす)しと知りながら▲フード(食品)ロスを地でいく難問、節分過ぎても忘るべからず。何万人か、恵方巻きの一粒一粒の神様たちはきっと苦言をおっしゃっている。(徹)

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