『日本現代怪異事典』朝里樹著 怖い話、集めました

 こっくりさん、口裂け女、トイレの花子さん。戦後から現代まで日本各地に伝わる奇怪な現象や存在をめぐる怪異譚を書籍やネットから収集すること千種以上。3段組の約500ページにびっしり50音順に並べた。特異な情熱が生んだ労作だ。

 基本は怖い話。会社を無断欠勤した男を心配した上司が自宅を訪ねたら、鍵は開いているのに誰もいない。人の気配がするので探していると、わずか2ミリの隙間から男がじっとこちらを見つめていた。(「隙間男」)

 怖さも度が過ぎると笑いに変わる。渋谷の100メートル直線道路に現れた上半身だけの老女が両手で厚底ブーツの女子高生を追いかける。(「一〇〇メートル婆」)

 妖怪や幽霊には男よりも女、それも「○○ババア」「☓☓ばあさん」と呼ばれる高齢女性が多い。老人は死後の世界に近く、女性のほうが情や念が濃いうえ霊感が強いと思われているからか。

 出没場所は教室や校庭、トイレなど学校関係が目立つ。怖い話に感応しやすい子どもらの口コミが強い伝播力を持つからではないか。

 というように、ページをめくっていると、さまざまな考えが頭を巡る。特に索引が面白い。使われる凶器や危害の様態を分類した「使用凶器索引」を見ると、「呪い」「連れ去り」が圧倒的に多い。次に「憑依」「捕食」。恐怖をめぐる仮説が立てられそうだ。

 実話かうわさ話か作り話か、あわいに漂う物語群。ここにはきっと民俗学や社会学、物語論にとってのお宝がいっぱい埋まっている。

(笠間書院 2200円+税)=片岡義博

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