山守る酪農、28歳女性の挑戦 山北町、乳牛放牧で山林再生

 神奈川県相模原市出身の島崎薫さん(28)が今年春から、岩手県で学んだ「山地(やまち)酪農」を神奈川県山北町で実践する。乳牛が牛舎ではなく野山で自然の下草をはむので、林業が衰退し荒れてしまった山林の管理にもつながるという酪農だ。9日夜、川崎市内の学習グループに講師として招かれ、酪農や山への熱い思いを語った。

 人口急増地域の武蔵小杉駅周辺(中原区)の住民らが交流する「こすぎの大学」が、川崎市の水源地である山北町との関係を考えようと企画。区役所の会議室に約50人が集まった。

 島崎さんは東京農業大3年の時に山地酪農を知り、卒業後に岩手県の中洞牧場に就職。山地を利用した独特の酪農を学んだ。

 現在は山北町に移り住み、大野山の県営牧場跡の一部8・8ヘクタールを借り、今年5月にまず乳牛5頭を迎え入れる準備を進めている。

 「降った雨を蓄える大切な役割を果たすのが山です」。島崎さんは、まず林業が廃れて下草刈りなど手入れがされない山林の荒廃ぶりに触れた上で、山地酪農の効用について説明を始めた。

 「山に入った牛がやぶを食べ尽くすので、人間が山に入れるようになり、林業の作業もしやすくなる。伐採した木の葉も牛が食べる。餌に使う野シバは山の表面に根を張り、大雨のときの土砂崩れもなくなる」 傾斜地を動き回る牛は丈夫になり、牛舎で飼う牛のように本来は食べない輸入穀物を与えて濃い乳が出るように無理を強いることなく、栄養価の高い生乳を得られるという。

 「本来は20年の寿命があるのに、5〜6歳で乳が出なくなり(加工品の原料などとして)出荷されてしまう酪農は変えたい」と島崎さん。牧場では搾乳小屋などの初期投資に1千万円以上の融資を受け、ソフトクリームミックスなどの乳製品を販売し返済していく計画だ。講演をこう結んだ。

 「山で生活し、山で経済を回し、牛と一緒に山を管理する姿を、私は大野山で見せたい。この酪農が日本中に広がり、放置されている人工林や荒れた山々をみんなで再生していきたい」

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