佐賀・諫干基金案受け入れ検討 岐路に立つ有明海漁協 背景に非開門狙う国の思惑

 国営諫早湾干拓事業の開門調査問題で、開門を前提としない国の有明海再生基金案の受け入れ可否を巡り、佐賀県有明海漁協が岐路に立たされている。いったんは可否の結論先送りを決めたが、基金案に賛成する福岡有明海漁連幹部が、反対の漁業者を直接説得したいと提案。事態は流動的な部分を残している。背景に、非開門での解決を目指し、関連訴訟で節目が訪れる26日までに佐賀側を転換させ、優位に立とうとする国の思惑がある。

 「気持ちは分かるが、他県の会長が口を出すのはどんなものか」

 同漁連の西田晴征会長が10日、佐賀県有明海漁協の中で特に受け入れに慎重な西南部地区の漁業者を、直接説得したい意向を示したことに、同地区の漁業者の一人は首をかしげる。

 開門調査を求める立場から基金案に反対していた同漁協は先月末、一転して受け入れ検討を開始。しかし、諫早湾に近く漁業不振が深刻な同地区は「基金で有明海が再生できる保証はない」と、3日に判断保留を決めた。同漁協も追認し、10日の佐賀、福岡、熊本3県漁業団体の協議で報告。これに西田会長が、同様に基金案に賛成している熊本県側と一緒に“直談判”したいと求めた。

 西田会長は協議後の取材に「3県一緒に有明海再生事業をやりたい。26日までに(同地区の話を)聞かせてもらいたい」と切羽詰まった様子で語った。同漁協の徳永重昭組合長も「最悪、基金がなくなる。きっぱり受け入れないと言ったわけではない」と強調した。

 26日は、開門を命じた2010年の福岡高裁確定判決に従わない国が、開門を強制しないよう求めた請求異議訴訟の控訴審が同高裁で結審する見通し。国が昨年「開門せず基金案による和解での解決を目指す」と表明して以降、初の和解協議が始まる可能性がある。

 仮に結審後、高裁が和解協議をせず判決を出すとすれば、基金案も立ち消えとなる。関係者によると、農林水産省は年明け前後から同漁協や福岡、熊本側に働き掛けを強め、こうした状況に“理解”を促しているという。漁業団体は訴訟当事者ではないが、もし3県がそろって基金案に賛同すれば、当事者である開門派漁業者は孤立を深める。

 10日の協議にも同席した同省農地資源課の担当者は「基金案による和解に向け努力している。具体的な中身は話せない」とする。

 同漁協西南部地区協議会長で新有明支所の岩永強運営委員長は、西田会長の説得を受け入れるか週明け以降検討するとしつつも、「福岡と佐賀では(漁業被害を巡る)立場が違う」と困惑を隠さない。

 10年の確定判決原告の一人で、同地区の佐賀県太良町の漁業、大鋸武浩さん(48)は「開門しない和解に応じるつもりはない。基金案を受け入れても、和解が成立しなければ基金はできない」と一連の動きをけん制。開門派弁護団の馬奈木昭雄団長は「基金案を巡り国が漁業者に“脅し”をかけている」と非難する。

◎ズーム/国の基金案

 諫早湾の潮受け堤防排水門の開門調査を実施しない代わりに、国が100億円を拠出して「有明海振興基金(仮称)」を創設し、沿岸4県・4漁業団体の裁量で漁業改善に役立てるとしたプラン。長崎地裁で争われた開門差し止め訴訟で、地裁の和解勧告に基づき2016年に国が提案。地裁の求めで国が賛否を聴取したところ、4県・4漁業団体のうち佐賀県と同県有明海漁協だけが反対した。この和解協議は17年3月決裂。同4月の判決で地裁は開門差し止めを命じ、国は非開門で和解を目指す方針にかじを切った。

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