闘病中の子どもとその家族を支える「第二のわが家」

マクドナルドの店頭(レジ前)に、募金箱があるのをご存知ですか?この募金箱に寄付されたお金はすべて、ある「ハウス」の運営のために使われています。闘病中の子どもとその家族の負担を減らしたいとつくられた滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」。全国12箇所で運営されているこの施設を紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■病気の子どもとその家族のために「第二の家」を

日本で最初にできた「せたがやハウス」。2001年、東京都世田谷区の国立成育医療研究センターの近くに設立された

「ドナルド・マクドナルド・ハウス」は、自宅から遠く離れた病院に入院する子どもとその家族が利用できる滞在施設です。

「わが子が病気になって入院を余儀なくされた時、『最善の治療を受けさせたい』『そばにいてあげたい』と思うのは、親として誰もが抱く感情。しかし、病院で限られた子どもとの面会時間が過ぎてしまうと、家族の行き場はない。

子どものことを最優先して、自分のことはあと回しになり、ろくな食事もとらずにつきっきりの看病をする親御さんも少なくない」。

そう話すのは、「ドナルド・マクドナルド・ハウス」を運営する「公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン」のハウス運営・ブランドコミュニケーションマネージャーの山本実香子(やまもと・みかこ)さん(45)。

お話をお伺いした山本さん。東京都立小児総合医療センター近くに設立された「ふちゅうハウス」にて、ボランティアさん手作りのキルトの前で

「病気のお子さんに付きっきりで病院の待合室で寝泊まりすることは、3日や1週間であれば、親御さんも耐えられるかもしれない。しかしそれ以上になると、肉体的な負担や経済的な負担があまりにも大きい」と現状を指摘します。

「ドナルド・マクドナルド・ハウス」は1974年にアメリカで発祥しましたが、日本では2001年、東京の国立成育医療研究センターの近くに建てられた「せたがやハウス」が活動の始まりです。

■ハンバーガーチェーン「マクドナルド」との関係は?

マクドナルドの店頭(レジ前)にある募金箱。募金されたお金はすべて「ドナルド・マクドナルド・ハウス」運営のために使われる

大手ハンバーガーチェーンの「マクドナルド」が昨年10月、「マックハッピーデー」というイベントを実施したのをご存知でしょうか。

この日、お客さんが「ハッピーセット」を購入するごとに50円が「ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン」へとチャリティーされ、闘病中の子どもたちとその家族を応援できるという取り組みです。

現在、全国各地に12のハウスがある

このように「マクドナルド」からの支援を受け、「ドナルド・マクドナルド・ハウス」という名の通り、その名前にも財団名にも「ドナルド・マクドナルド」という名称が入っています。つまり「マクドナルド」が運営している財団なのか?という素朴な疑問を、山本さんに投げかけてみました。

「マクドナルドは私たちにとって最大の支援企業だが、組織としては別物。私たちは、そのほかにもたくさんの企業やボランティアの方々に支えられて活動している」(山本さん)

全国にある12のハウスは、それぞれ地域企業や多くのボランティアに支えられて、初めて成り立っているといいます。

■家族の肉体的・経済的負担を減らしたい

ベッドルームでひとときの団らんを過ごす親子。それぞれのハウスは病院との距離が近いので、外出許可のでた患者とそのきょうだいが、一緒の時間を過ごすことができる

ハウスの利用者は、自宅から遠く離れた病院で闘病中の20歳までの子どもとその家族。利用は先着順ではなく、子どもの治療内容や利用期間等を踏まえ、病院側とも相談しながら、その都度利用する家族を決定しているといいます。

全国にあるすべてのハウスが病院から徒歩5分圏内の距離にあり、利用料は1日たった1,000円。自宅から遠く離れた場所で闘病するわが子を支える家族の負担を少しでも軽減したいという思いがあります。

共有スペースのダイニングキッチン。利用家族は基本的に自炊だが、そのために必要な冷凍・冷蔵庫、食器や調理器具、基本的な調味料はハウスに揃っている

「病院が自宅から遠く離れている場合、毎日通うのは家族にとって大きな負担。何かあった時に、すぐに駆けつけられない不安もある。かといって、病院の近くのホテルやウィークリーマンションに滞在するには、経済的な負担も大きい。子どもの入院している病院のすぐ側で、経済的な負担も少なく生活できることも喜ばれているが、入院している子どもの外出許可が下りれば、ハウスでは家族皆で宿泊することも可能。『家族みんなで水入らずの時間を過ごすことができた』『何かあっても、病院がすぐ近くなので安心』『時間的に余裕ができて、その分子どもと落ち着いて接することができるようになった』といった声をいただいている」(山本さん)

■「温かい空間」づくりには、ボランティアのサポートが不可欠

ベッドルームで、ベッドメイキングをするボランティアの皆さん。一つのハウスには、150〜200人ほどのボランティアが携わっているという

ハウスのコンセプトは、“Home-away-from-home”、「家から離れた第二の家」。自宅のようにリラックスした空間を過ごせるよう、あえてボランティア手づくりの置物やキルトカバーなどを置き、温かく感じてもらう工夫をしています。

また、ハウス内の清掃や利用家族への対応などもすべて地域のボランティアが行うほか、地元企業の職員や大学の学生の1日ボランティアを受け入れ、「ミールプログラム」と呼ばれる滞在者への食事提供を行うなどして、「自宅のような温かい雰囲気」で闘病中の子どもを持つ家族の生活をサポートしています。

ある日の「ミールプログラム」の献立。作るだけでなく、献立から買い物、片づけまですべてミールプログラムのボランティアが行う。家族の健康を考えて、野菜などがふんだんに使われている献立が多い

「『ミールプログラム』のメニューはカレーライスとサラダだったり、コースメニューだったりといろいろ。闘病中の子どもの面倒を見ている親御さんは、自分のことはつい後回しになって、食事は簡単なコンビニ食で済ませるなど、ただでさえ栄養が偏りがち。担当する各団体のボランティアさんたちが健康を配慮して栄養バランスを考えた献立を考えてくださることもそうだが、何より『久しぶりに手作りの料理を食べた』と、愛情のこもった手料理に喜ばれることが多い。すべてにおいて、ボランティアさんなしには、ハウスの活動は成り立たない」(山本さん)

■滞在者同士の「触れ合い」生む工夫も

全国あるハウスはいずれも、ベッドルームが各室個室になっている造りで、それぞれの部屋にはベッドが二つと、バス・トイレがついています。キッチンやリビングは共有スペースになっていて、テレビも共有スペースにあります。

ここには、滞在者同士が触れ合えるよう、ちょっとした工夫がなされていると山本さん。

「『他の人と話して、精神的に支え合ってほしい』というハウスの思いがあるので、個室にテレビは置いていない。全てがベッドルームで完結してしまうと、子どものお見舞いに行く時以外は部屋にこもりがちになってしまう。あえて共有の空間を作り、ちょっとお茶を飲んだり、テレビを見たりする時に、ふと同じ空間にいる他の滞在者と触れ合うことで、気持ちが楽になったり励みになったりして、闘病生活を続ける支えになれば」

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