アルセロール・ミッタル、印エッサールへ買収提案 再建スポンサーに名乗り

 アルセロール・ミッタル(AM)は12日、インド鉄鋼大手のエッサール・スチールに対し買収を提案したと発表した。巨額の負債を抱えるエッサールの再建スポンサーとして手を挙げたもので、買収が実現すればAMの粗鋼年産は1億1千万トンに迫る規模となりそうだ。

 インドではモディ政権のもと国営銀行が抱える不良債権の処理が進められている。多額の負債を抱える鉄鋼メーカーは整理対象に指定され、資本力のある大手へ身売りされる方向で、エッサールはその中でも最大の出物とされている。

 エッサールは印西部のグジャラート州ハズィラに一貫製鉄所があり、高炉やDRI、コレックスといった多様な上工程から薄板や厚板を生産している。公称の粗鋼年産能力は960万トンだが、AMによると転炉や連続鋳造機にボトルネックがあり実際に造れるのは最大610万トンという。

 インドで今回の不良債権処理に伴う鉄鋼メーカーの売却はエッサールのほかブーシャン・スチール、ブーシャン・パワー&スチール、モネット・イスパット、エレクトロスチール・スチールスなどが挙がっている。AMのような外資系だけでなく、JSWスチールやタタ製鉄といった国内勢も買収に動く見込みで、これらも再編で印鉄鋼市場の勢力図が大きく塗り変わることになりそうだ。

母国進出でも「お家芸」

 世界最大手の鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミッタルにとり、インド進出はかねてからの悲願だ。オーナーであるミッタル家はインド出身だが、兄弟とのれん分けし海外部門を受け継いだためインドには製鉄所がない。その兄弟が経営していた鉄鋼メーカー、イスパット・インダストリーズは競合社のJSWスチールに飲み込まれた。

 買収を繰り返し世界最大手の座についたAMだがリーマン・ショック後は資金難に陥り、その手を止めざるを得なかった。しかし近年は新日鉄住金と共同で米国のアラバマ薄板工場(今のAM/NSカルバート)を買収。昨年にはイタリアでマルチェガリアと共に伊高炉大手のイルバの再建スポンサーに選定され、欧州委員会の承認待ちとなっている。

 AMの17年12月期業績は純利益で45億ドルを稼ぎ、リーマン後では最高だった。業績回復に伴い「お家芸」の買収攻勢が復活しつつあり、ラクシュミ・ミッタル会長は声明で「エッサールは高成長の印市場へ参入できるまたとない機会」と強い意欲を示している。

 AMはインド戦略の一環で2009年に同国の薄板リローラー、ウッタム・ガルバ・スチールスへ29%出資したが、ウッタムはオーナー企業のため経営の主導権を握れなかった。自動車用鋼板の現地生産では国営メーカーのセイルと合弁事業の設立を計画しているものの実現に至っていない。

 エッサールは印民営ミルの中では能力増強で先行してきたものの、製品品質や納期などに難がありシェアを伸ばせなかった。AMは過去の買収で再建を達成してきた実績や技術移転、設備投資などを通じてエッサールをより活用できると見ている。(黒澤 広之)

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