敗北を超えて

 一昨日、国民栄誉賞が贈られた二人のスーパー棋士。えりすぐりの才能が競い合う棋界で、並外れた成績を残し続けてきた将棋の羽生善治さんも、囲碁の井山裕太さんも勝負の世界に生きる以上、黒星と無縁ではいられない▲羽生さんは昨年、タイトルを二つ失った。井山さんは晴れの授与式の5日前、国際棋戦の決勝戦で中国の強豪に敗れたばかりだった。敗戦は敗戦として受け入れ、謙虚に自らを磨く。勝利や栄光はいつもその先に▲ここでも失意を超えた笑顔が輝く。日本勢のメダルラッシュが始まった平昌五輪、昨夜のスピードスケート女子1000メートルでは小平奈緒選手が銀、高木美帆選手が銅に輝いた▲別の組で五輪記録を塗り替えたオランダ人選手の見えない背中を追う難しいレースになった。金と銀を分けたのはわずか0・26秒。私たちにはまばたきがせいぜいの時間だ▲中学生でバンクーバー五輪に出場して「天才少女」と呼ばれた高木選手はソチ五輪の代表から漏れた。小平選手は過去2回の五輪で個人種目のメダルに手が届かなかった。それぞれに悔しさをかみ締め、自分に足りない“何か”を追求してきた4年間が花を咲かせた▲表彰台のてっぺんは「お預け」になった。両選手とも出場予定が残り1種目ずつ。私たちの欲張りな期待は続く。(智)

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