紅白で思い切った企画を見たい ヒット曲少なかった17年

第68回NHK紅白歌合戦のリハーサル風景

 昨年、NHK紅白歌合戦の一連の取材を担当したが、実は当日の生放送はほとんど見ていない。後日、録画で見た。例年のことながら、担当記者が主にいるのは会場であるNHKホールの舞台脇の通路だ。本番を控えた出場者の様子を見守ったり、出番を終えて上気している歌手に感想を求めたり。テレビでじっくり歌う姿を見られないのは残念だが、国民的番組の舞台裏を曲がりなりにものぞけるのは楽しい。

 出演前の様子はさまざま。集中しているのか黙ってうつむき気味の人もいれば、にこやかに談笑している人もいる。ある歌手は自身のバックダンサーと勘違いして、他のアイドルグループのダンサーに「とにかく笑顔で行きましょう!」とにこやかにハッパを掛けていた。舞台に上がる直前で気付き「あれ、違いますね」とさわやかに苦笑。余人からはうかがい知れないが、本人はそれなりに緊張していたのかもしれない。

 本番前には、数日をかけたリハーサルがある。生放送は見られずとも、こちらを見られるのが担当記者の特権だ。念入りに進められるリハを間近で見ていると、改めて紅白とはすごい番組だと恐れ入る。歌手が入れ替わるたびに数分で新たなセットが組まれ、数十人ものダンサーが舞い踊る。ステージの豪華さ、演出の緻密さは国民的番組の名に恥じない。

 さて、そんな今回の紅白歌合戦。いろいろ言った上で恐縮ではあるが、全体を通してみれば前回の方が企画の面では面白かったような…。これは番組のせいとばかりはいえない。2017年はそもそも、前向きな芸能ニュースそのものに乏しかった。

 映画「君の名は。」「シン・ゴジラ」、ドラマの主題歌として人気に火が付いた星野源の「恋」、さらにはピコ太郎で盛り上がった16年に比べ、17年は世間を広くにぎわせるヒット作、ヒット曲があまり生まれなかった。歌は世につれ、世は歌につれ。その年の話題で企画を構成する紅白にとって、17年は不利な状況だったと言える。

 番組第2部の視聴率は2部制となった1989年以降のワースト3位で、前回より0.8ポイント減の39.4%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。現在でもこれだけの数字を上げているのはすごいが、長期的には下落傾向にあり、いずれは曲がり角を迎える懸念もある。そう言われながら長らく続いているのも確かだけれども、今回のように新たなヒット曲がない年だと「懐メロ」の印象はいかんせん強まる。

 メディアや嗜好の多様化、CDから配信という流通の変化によって、従来のようなヒット曲は生まれにくくなったが、音楽の力そのものが減じた訳ではないだろう。NHKホールの晴れ舞台で「よー、そこの若いの」をギター1本で歌いきった竹原ピストルは実に格好良かった。紅白出場によって彼の存在を知った視聴者も少なからずいるはず。制作陣の“選球眼”は素直に称賛したい。

 どの放送局でも同じだが、番組づくりにはさまざまな思惑が交錯するようで、作り手たちは何やら窮屈そうだ。公共放送NHKの看板番組で、長年の伝統を持つ紅白歌合戦は、その最たるものなのかもしれない。

 何をやっても何かを言われるのだから、開き直って制作陣が本当に見せたいものを見せる。結果はどうあれ、思い切りバットを振り切るような紅白を今後はぜひ見てみたい。放送前、放送後に、紅白をさかなにみんなであれこれ言う。無責任なようではあるが、それも含めてこの番組は、視聴者にとって大きな娯楽になるのだから。(共同通信文化部記者 川元康彦)

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