ダム群の特別防災操作が流域住民を守った~昨年の超大型台風21号と水資源機構の素早い対応~ ダムが洪水から生命・財産を守る

提供:水資源機構

超大型台風21号の襲来と大きな被害

2017年10月20日、北上中の台風21号は、2015年の台風第23号以来となる強風域が半径800km以上の「超大型」台風となった。さらに、21日午前7時時点で、中心付近の最大風速が44 m/s以上の「非常に強い勢力」の台風に成長した。その後21号は、近畿地方や東海地方を暴風域に巻き込みながら速度を上げて東海沖を進んだ。気象庁は厳重な警戒を呼びかけた。

23日午前3時ごろ、21号は「非常に強い」勢力から「強い」勢力へと弱めたものの、「超大型」を維持したまま静岡県御前崎市付近に上陸した。上陸時の中心気圧は950hPa、最大風速は40m/sだった。「超大型」での日本への上陸は、確実な記録の残る1991年以降で初めてである。また、10月23日に台風上陸という記録は、統計史上1年の中で3番目に遅いものである。

上陸した21号は神奈川県や東京都を通過し、23日午前8時ごろに茨城県日立市沖に抜けた。23日午後3時、北海道の東の海上で温帯低気圧に変わった。消防庁によると27日時点で、死者8人、重傷者29人、軽傷者185人、住家の全壊5棟、半壊13棟、一部破損515棟、床上浸水2390棟、床下浸水3186棟、非住家被害23棟が確認された。

この超大型台風については、台風の中心から離れた地域で記録的な暴風となったり、進行方向左側の近畿地方で洪水や土砂災害などの被害が拡大するなど、一般的な台風の姿として語られる、台風の中心付近や進行方向右側で被害が大きくなるという従来のイメージとは異なるパターンとなった。

秋の大型台風が日本付近に到達するとき、進行方向北側が要注意という場合がある。北の寒気と南の暖気が台風の北側でぶつかり合って大雨となるからだ。この台風では北側にあたった近畿地方で雨量が異常に多くなったのは、こうした要因があったと見られている。

水資源機構の防災操作

水資源機構では所管する多くのダムをはじめ、堰や水路などの大半で組織挙げての防災操作を展開した。いわば総力戦で、流域住民の生命財産を守り、被害軽減に貢献したのである。

台風21号の接近に伴う降雨等により、水資源機構の各施設では、防災態勢をとり、施設の適切な操作に入った。中でも、徳山ダム、高山ダム、室生ダム、青蓮寺ダム、比奈知ダム、布目ダム、日吉ダムでは、施設の安全を確認した上で、本来定められた放流量を減量するなどの特別防災操作を行い、下流地域の洪水被害を軽減する効果を発揮した(後述)。

水資源機構の動きを確認しておく。

●本社防災態勢の状況、ダムにおける洪水調節等の状況、水路における状況の実績は以下の通り(時間は24時間表記)。

1.本社防災態勢の状況
21 日 13:00 注意態勢発令
22 日 15:30 第一警戒態勢発令
22 日 20:30 第二警戒態勢発令
23 日 08:30 第一警戒態勢発令

2.ダムにおける洪水調節等の状況
(1)洪水調節を実施したダム(16 ダム)
・ 利根川・荒川水系
矢木沢ダム、奈良俣ダム、下久保ダム、草木ダム、滝沢ダム、浦山ダム
・ 木曽川水系
徳山ダム
・ 淀川水系
室生ダム、青蓮寺ダム、比奈知ダム、高山ダム、布目ダム、日吉ダム、一庫ダム
・ 吉野川水系
早明浦ダム、池田ダム
・ 筑後川水系
なし
(2)特別防災操作を実施したダム
◯ 高山ダム(本則は1300-1800m3/s定率定量)
22日 22:00 有市地点において2900m3/s以下となるように調節
23日 05:00 高山ダム放流700m3/s一定放流
◯ 室生ダム(本則は300m3/s一定放流)
22日 18:50 250m3/s一定放流
22日 21:20 220m3/s一定放流
23日 02:50 200m3/s一定放流
◯ 青蓮寺ダム(本則は450m3/s一定放流)
22日 20:00 350m3/s一定放流
22日 21:20 310m3/s一定放流
23日 02:50 150m3/s一定放流
23日 04:20 180m3/s一定放流
◯ 比奈知ダム(本則は300m3/s一定放流)
22日 20:00 200m3/s一定放流
22日 21:20 170m3/s一定放流
23日 02:50 50m3/s一定放流
23日 04:20 30m3/s一定放流
23日 05:10 45m3/s一定放流
◯ 布目ダム(本則は100~150m3/s定率定量)
22日 19:10 100m3/s一定放流
23日 01:50 20m3/s一定放流
◯ 日吉ダム(本則は、150m3/s一定放流)
22日 16:10 150m3/s一定放流(洪水調節開始)
22日 22:00 60m3/s一定放流
23日 01:30 15m3/s一定放流
23日 05:50 150m3/s一定放流(本則操作)
◯ 徳山ダム(洪水貯留準備水位・標高391mで200m3/s一定放流)
22日 21:12 全量カット
(3) 事前放流を実施したダム
◯ 青蓮寺ダム、比奈知ダム、室生ダム、布目ダム、高山ダム
(4)内水排除
◯ 武蔵水路
22 日 10:00 通水停止
22 日 11:13 放流口ゲート全開、佐間・川面水門取入開始
自然流下による排水開始
22 日 15:49 糠田(ぬかた)排水ポンプによる強制排水開始
23 日 05:07 星川水門取入開始
強制排水(最大50m3/s)
○ 琵琶湖開発
23 日 11:00 大同川排水機場ほかより順次排水操作を開始
(5)洪水流下
◯ 長良川河口堰
22日 23:29 堰ゲート全開

3.水路における状況
○ 印旛沼開発
・ 台風接近による降雨予測で印旛沼(千葉県八千代市他)の水位が上昇することが見込まれたため、22日9:30 から印旛機場より利根川へ、さらに同日15:00 から大和田機場により花見川を通じて東京湾へ、合計約210m3/s の排水運転を開始した。
・ この排水運転によって印旛沼の水位をYP3.00m 以下に抑制した。23日15:00 現在も運転を継続している。
○ 愛知用水
・前山池(愛知県常滑市)では、22日22:10に24時間累計雨量が180mm を超えたため、非常態勢を発令して災害発生に対する警戒を強化した。
・ 遠方監視装置による夜間の通水状況監視並びに朝になっての監視カメラ等によ
る確認でも特段の異常が見られないことから、23日8:30で非常態勢から第一警
戒態勢へ移行した。その後、水路巡視による安全点検等を実施した結果、一部法
崩れが確認されたが通水に支障は生じていない。
○ 三重用水
・ 加佐登調整池(三重県鈴鹿市)の自流域からの流入量が22日21:30に30m3/sを超えたため、非常態勢を発令して災害発生に対する警戒を強化した。
・ その後、流入量が25m3/s を下回ったため、23日2:20で非常態勢から第一警戒態勢へ移行した。その後の安全点検で異常は見られない。

布目ダム(提供:水資源機構)

中部・近畿での果敢な取り組み

水資源機構のダム操作で、特筆すべきは、中部・近畿地方でのダム総合管理所や事務所の素早い判断と動きであった。代表例を挙げてみよう。
〇<高山ダム管理開始以来、2番目の規模となるダム流入量を記録>
淀川水系名張川の水資源機構の管理する高山ダム(京都府相楽郡南山城村)流域では、台風21号に伴う総雨量が400mmに達し、ダムへの流入量は最大2294m3/sを記録した。これは、1989年(昭和4 4年)から管理している高山ダムでは2番目に大きな流入量の洪水だった。(以下、国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と水資源機構木津川ダム総合管理所の広報資料による)。この大洪水に対して、高山ダムでは国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理
事務所と協同し、特別防災操作※を実施し、ダム下流の有市(ありいち)水位観測所において、水位を最大約1.9m低減(推定)し、道路の冠水時間を2.5時間も低減し、通行止めの時間短縮に寄与した。

この防災操作を具体的に見てみる。同操作では下流河川の状況、木津川本川の状況、ダムの貯水容量等を考慮し、淀川ダム統合管理事務所と連携し、ダム下流の浸水被害軽減のための特別防災操作を行った。この結果、ダム下流の有市水位観測所付近では、高山ダムによる洪水の貯留によりダムが無い場合に比べて河川水位を最大約1.9m低減(推定)し、国道の水没時間を8時間から5時間半に短縮した。
(※『防災操作』とは、大雨などによりダム湖に流れ込む洪水の一部を貯水池に貯め込み、洪水を小さくして、ダム下流の河川に流すことを言う。また、『特別防災操作』とは、下流河道の整備状況を勘案し、防災操作実施後の貯水容量に余裕があると判断した場合には、ダムの洪水調節容量をさらに増やす、つまり全体の貯留量を増やし、放流量を低減させることで下流の被害を軽減する操作のことである)。

日吉ダム(提供:水資源機構)

〇<日吉ダム、台風21号に伴う洪水に対し防災操作を実施~桂川の河川水位を低減~>
淀川水系桂川の水資源機構日吉ダム(京都府南丹市日吉町)流域では、台風21号の影響により、10月21日午前6時から23日午後2時までの総雨量が229mm(ダム流域平均雨量)を記録した。この豪雨により、ダムへの最大流入量は、毎秒618m3に達した。(以下、国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と水資源機構日吉ダム管理所の広報資料による)。

この洪水に対して、日吉ダム管理所と国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所は協同し、特別防災操作を実施し、最大流入時に約94%(毎秒約578m3)の水をダムに貯留して、ダム下流の河川水位の低減に努めた。

より具体的に特別防災操作を見てみよう。台風21 号の影響により、淀川水系桂川の日吉ダム流域では、10月22日午後8時~9時までの1時間の雨量が15.6mmを記録し、降り始めの10月21日午前6時から23日午後2時までの総雨量が229mm(ダム流域平均雨量)にもなった。

この降雨により、ダム流入量が増加し、22日午後4時10分には洪水量(毎秒150m3)に達した。ダム下流の河川水位の上昇を低減させるため、降雨及びダム流入量の状況から、ダム流下量を減量してもダムに貯留可能であることを確認し、日吉ダム管理所と国土交通省淀川ダム統合管理事務所は協同し、特別防災操作を行った。

特別防災操作は、22日午後10時40分に、ダム流下量を通常の防災操作である毎秒150m3から、毎秒60m3とし、さらに23日午前1時30分には毎秒15m3まで減量し、通常の防災操作以上に貯留する操作を行った。

23日午前1時22分には、流入量が最大(毎秒618m3)となり、同時刻におけるダム流下量は毎秒約40m3であり、流入量の約94 %(毎秒約578m3)をダムに貯留した。

防災操作の概要

今回の防災操作により、日吉ダムが無い場合と比べ、ダム下流の保津橋(ほづばし)地点(亀岡市保津町下中島地先)の河川水位を、最大約0.4メートル低減したものと推定され、はん濫危険水位(4m)の超過時間を約5時間短縮したものと想定される。保津橋地点の水位低減効果につながった。

〇<布目ダム管理開始以来最大のダム流入量を記録>
木津川水系布目川の水資源機構が管理する布目ダム(奈良県奈良市北野山町)流域では、台風21号に伴う総雨量が270mmに達し、ダムへの最大流入量は1992年の管理開始以来最大の毎秒約210m3を記録した。

この大洪水に対して、布目ダムでは国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と協同し、特別防災操作を実施し、ダム下流の興ヶ原(おくがはら)水位局観測所付近で、河川水位を約1.2m低減(推定)させることにより、下流沿川の洪水被害軽減に努めた。(以下、国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と水資源機構木津川ダム総合管理所の広報資料による)。

この防災操作では下流河川の状況、布目川の状況、ダムの貯水容量等を考慮し、淀川ダム統合管理事務所と連携して、布目川沿岸の洪水被害軽減のための特別防災操作を行った。

ダム下流の興ヶ原水位観測所では、布目ダムの防災操作によりダムが無い場合に比べて河川水位を約1.2m低減したと推定され、下流の洪水被害軽減に努めた。

10月20日、午前4時頃より降り始めた台風21号に伴う降雨は、淀川水系布目川の布目ダム上流域で、10月22日午後8時~9時の1時間の雨量が最大21mm、総雨量は270mmに達し、ダムへの最大流入量は管理開始以来最大の毎秒約210m3を記録した。1992年からの管理開始以来最大のダム流入量を記録したことになる。この洪水に対して、流入量が増加し、22日午後6時40分には洪水量(毎秒100m3に達したため、防災操作を開始した。

〇<名張川の洪水被害を軽減>
淀川水系名張川の水資源機構の管理する名張川上流3ダム(青蓮寺ダム・三重県名張市中知山、室生ダム・奈良県宇陀市室生大野、比奈知ダム・三重県名張市上比奈知)流域では、台風21号の降雨により、10月18日午後3時から10月23日午前7時までの総雨量が青蓮寺ダム流域で470mm、室生ダム流域で357mm、比奈知ダム流域で522mmを記録した。この大洪水に対して、名張川上流3ダムでは国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と協同し、特別防災操作※を実施し、ダム下流の名張地点において水位を約1.3m(推定)低減することにより、下流沿川の洪水被害軽減に努めた。

以下、国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と水資源機構木津川ダム総合管理所の広報資料による。

青蓮寺ダム、室生ダム、比奈知ダムの特別防災操作を具体的に見てみる。10月18日午後3時頃より降り始めた台風21号に伴う降雨は、淀川水系名張川の3ダムでは、比奈知ダム流域で、10月22日午後10~11時までの1時間の雨量が最大35mmを記録するなど、すさまじい降雨であった。

この豪雨による出水に対して、各ダムへの流入量が増加し、ダム下流沿川の洪水被害を軽減するため、国土交通省近畿地方整備局淀川ダム統合管理事務所と協同し、青蓮寺ダム、室生ダム及び比奈知ダムの特別防災操作を行った。

ダム下流の名張水位観測所では、青蓮寺ダム、室生ダム及び比奈知ダムの特別防災操作によりダムが無い場合に比べて河川水位を約1.3m低減できたことが推定され、下流の洪水被害軽減に大きく寄与した。
(謝辞:資料の引用をお許しいただいた国土交通省近畿地方整備局と独立行政法人水資源機構に感謝したい)

(つづく)

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