天国と地獄を見たプロ10年 オリックス伊藤が激白「捕手としていたい」

インタビューに応じるオリックス・伊藤光【写真:編集部】

一時は日本代表入りも出場数激減、オリックス伊藤が明かす胸中

 1996年以来、リーグ制覇から遠ざかっているオリックス。2014年にはソフトバンクと最後まで優勝争いを演じリーグ2位となったが、その後は3年連続Bクラスと厳しい状況が続いている。そんなチームで強い決意のもと、新シーズンに挑む選手がいる。伊藤光だ。「捕手として勝負したい」――。春季キャンプを送る28歳が今季にかける思いを語ってくれた。

 2013年には137試合に出場し打率.285をマーク、さらに翌年(14年)にも137試合に出場し打率.257を記録。チーム防御率リーグ1位の強力な投手陣を支え、Aクラス(2位)入りの原動力となった。ベストナイン、ゴールデングラブ賞、最優秀バッテリー賞を獲得し、日本代表にも選ばれた。オリックスの正捕手は今後、10年間は安泰と思われた。だが、16年には当時プロ3年目だった若月健矢が台頭し、出場機会は減少していった。

「チームが勝てなかったら責任がくるポジションですから。結果がすべて自分の責任。僕に力がなかっただけ。常にやり返す気持ちをずっと持っていました。周りからは『ライバルは若月』と言われますが、そういう思いは持っていないです。仲が悪いとかいうわけじゃなくて(笑)。

 周りを見ることもないですし、自分が結果を残せばいいだけ。それがチームのためにもなる。タイトルだって何年も連続で取らないと意味がないですし」

16、17年は出場機会を増やすため一塁、三塁に挑戦

 16、17年は打撃を生かすため、本職ではない一塁、三塁を守ることもあった。ただ、どんな時でも頭の中にあるのは「捕手・伊藤光」だった。三塁を守っていても、ベンチから試合を見る時も配球や投手の状態を気にする自分がいた。オフの契約更改では捕手一本で勝負したい思いを球団に伝えた。だが、それは出場機会が減る可能性もあり自分自身の首を絞めることになるかもしれない。それでも、それ以上に捕手への思いは強かった。

「正直、内野をやるようになった時はどんな形でも試合に出たい思いがあった。でも、捕手としていたい。純粋に捕手としてのこだわりを持っています。一度、試合中に三塁から捕手にいってボールを受けることがあったんですが、さすがにそれは無理、厳しいなと感じました。投手にも迷惑になる。中途半端ではないですが、自分に責任を持てないと思った」

 2014年10月2日対ソフトバンク戦(ヤフオクD)。負ければV逸、勝てば残り2試合に連敗しない限り優勝だった「10・2決戦」。延長10回にサヨナラ負けを喫して涙を流し、その場で起き上がることができなかった。あの時の悔しさを忘れたことはない。負けられない、緊張感のある中で1年間を過ごせたことは今も財産になっているという。

「4月から首位を走って、追い越されて追いついて。シーズンの中であと1勝できれば優勝することができた。でも何かが足りなかった。優勝するために何が必要なのかを考えるようになった。中島さん、小谷野さん、(山崎)勝己さんにも色々と聞きましたが、皆言葉にするのはやっぱり『追われる立場のほうが辛い』と。その経験がなかった。でも、14年を経験できたことが自分の強みにもなると思っている。今のメンバーを見ても、勝己さんと自分だけですし」

オフは中島と米ロスで自主トレ、「すべての価値観が変わりました」

 オフには米ロサンゼルスで自主トレを行っている中島宏之のもとを訪ねた。プロ野球選手だけでなく世界中のアスリートたちが集まるトレーニング施設で、初めて経験するトレーニング、知識などを吸収した。約2週間の自主トレ期間中は中島と寝食を共にし、野球に対する考え、食事面なども教わった。

「中島さんと一緒にできたのは本当によかった。中島さんはどんな状況でも辛い顔、悩んでいる顔を見せない。一体、何を考えているのかって。西武時代に対戦もしていますが本当にバッターとして嫌な選手だった。何も考えていないように見えていたけど、そうじゃなかった。野球においての体の使い方、配球、また食事面、睡眠など、本当に全てのことを考えて野球に取り組んでいた。自分の中ですべての価値観が変わりました。もっと早く気づくことができたらよかったと思えるぐらいです」

「それに、向こうのアスリートはすごいストイック。めちゃくちゃ辛いトレーニングにも疲れた表情は一切見せない。一つのトレーニングが終われば涼しい顔して、次に向かう。日本だったら『あー! 疲れた、しんどい』って言葉に出して表情にも出すじゃないですか。それが全くない。そりゃ、トップになるなって。それが見られただけでも収穫でした」

 プロ11年を迎え、今年4月で29歳を迎える。まだまだ成長過程と言っていいだろう。天国と地獄を見た男の目は光り輝いていた。

「毎年、シーズン中に自力V消滅とか、優勝争いに参加できないことが悔しい。消化試合は来シーズンを見据えた試合になる。そんな思いはしたくない。チームが勝利した瞬間にマウンドに駆け寄ってハイタッチする。この瞬間のために捕手をやっている。目標はキャリアハイです。そうすれば自然と全てがついてくるので。もう本当に自分との勝負しか頭にないですね」

(Full-Count編集部)

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