政治と低投票率 「鼓腹撃壌」の状況なのか 谷村隆三氏

 わが県の知事選が終わったが、気になるのは36%という低い投票率だ。国政選挙の投票率も低迷し、近年は50%台が続く。棄権した人の決まり文句は「私の1票では何も変わらない」「候補者の選択肢がない」というもの。気持ちは分からないでもないが、選挙は民主主義の基本だ。結果責任は有権者に返ってくる。

 近年の海外の国政選挙の投票率を調べると、アメリカ59%、イギリス66%、フランス55%と高くはない。日本などでは投票は権利であって、それなら「行使しようとしまいと私の勝手でしょ」と考える人たちが少なくない。しかし、歴史を振り返れば、性別や納税額、思想信条の別なく、1票の権利があることはとても恵まれたことなのだ。

 お叱りを受けそうだが、そもそも投票率が低いことがそれほど問題なのかと考えてみる。世論調査もそうだが、一部の意見でも全体の傾向をうかがい知ることはできる。民が政治に関心がないことは、政治がまあ、うまくいっている証しだという中国の「鼓腹撃壌(こふくげきじょう)」の故事もある。

 ただ、今のわが国を見渡したとき、うまくいっていると言えるかどうか。何があっても無関心、思考停止している人が増えているのだとしたら、それは怖いことである。

 政治に関心が低いのは、政治家の問題なのか、マスコミが役割を果たせていないのか。それとも民主主義、選挙制度の欠陥なのか。ならば、他にどのような手段があるのか。

 世界にはさまざまな選挙制度がある。投票を義務化して、投票に行かなければ罰金や刑務所行きというところもある。そうした義務投票制や、一党独裁の形式選挙の国々の投票率は当然に高い。

 ところが、義務ではないのに投票率が高いのが北欧の国々だ。デンマーク、スウェーデン、ノルウェーは80%前後に上る。共通するのは福祉が充実しているが、税率も高いことだ。国民は税金の使われ方に敏感で、政治意識が高い。投票率を上げるには、正比例の関係にある税率を上げるのも一つの手だろう。

 わが国では世代間の差が鮮明だ。昨年の衆院選は60代の72%に対し、20代は33%。若い世代は自己中心的で、社会や政治に無関心なのだとか。学校では「民主主義」「選挙」について教えるが、生々しい政治や社会の議論が抜け落ちているのが一因だろうか。

 即効性を求めるならば、投票はがきの半券に連番を記載し、宝くじみたいに、県産品や海外旅行招待券が当たるとかすれば、投票率は上がるかもしれない。これまた、お叱りを受けそうなアイデアではあるが。

【略歴】たにむら・りゅうぞう 1949年長崎市出身。星野組代表取締役会長。2005年から長崎県建設業協会長。建設業労働災害防止協会県支部長、県建設産業団体連合会長なども務める。武蔵野美術大造形学部商業デザイン科卒。

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