【JX金属の中長期戦略】〈大井滋社長に聞く(上)〉世界トップクラスの銅企業目指す 3年で700億円投資、技術立脚型事業を育成

――中期経営計画(17~19年度)では下流事業の拡大を重要施策の一つとしている。

 「下流は単に収益を補完するという位置付けではない。当社が上流、中流、下流の事業を有するのは一連のサプライチェーンを有するという意義もあるが、もっと大きいのは事業間の技術的交流や情報共有などを通じて各事業を強化できること。また、当社がどこで社会貢献できるかを考えた時には素材の提供を通して自動車、電子機器など最終製品の機能を向上する、あるいは環境リサイクルで環境改善や資源を有効活用するという事業が理解しやすい。その下流を上流中流が支える、その逆も然りで、これがこの業態を追求する理由だ。この形を維持しつつ、その時々の経営環境に応じてどの事業を強化すべきかを柔軟に判断すれば良いと考えている」

 「長期ビジョンは銅を中心とした非鉄金属企業として高機能素材を社会に提供し社会貢献を果たすこと。そしてアジア有数、日本でトップレベルの企業を目指すことだ。当然、銅では世界トップクラスに位置付けられる企業を目指す」

JX金属・大井社長

――中計の重点課題は。

 「ここ数年、チリのカセロネス銅鉱山を中心に上流に多大な投資をしてきたが、その回収遅れで悪化した財務体質を健全化すること。このため、投資も抑制せざるを得ないが、将来の布石も打つ必要がある。そこで自らの力で稼げる技術立脚型事業を強化・育成するために3年間で700億円の戦略投資を投じる。三点目はカセロネス銅鉱山の早期安定操業と収益化を図ることだ」

――カセロネス銅鉱山の現状は。

 「昨年の大雪以降、遅れていた技術改善などもキャッチアップし、今冬に向けた対策も並行的に進めている。粗鉱処理量もおおむね回復し、フル操業に近い水準だ。課題は粗鉱中の銅分や有価物をより効率的に抽出・回収し、生産コストを低減すること。この改善スピードを上げて早期の収益貢献を図る。そのための技術導入などは東京からも積極的に支援する」

――銅価が回復傾向となり、銅は中期的に不足に向かう見通しです。自山鉱についてどう考えるか。

 「自前鉱山を極力持ちたいという考えはあるが、身の丈に合った形でやらざるを得ないし、まずは体力をつける必要がある。そのためにも銅価や為替の影響度の低い下流を強化して経営環境に逆風が吹いても揺るがない体制にする。そこで余力が生まれ、良い案件があれば上流、中流での投資も考えられる」

――佐賀関製錬所で自溶炉更新を含む大規模定修を実施した。

 「通常これだけの規模なら最低90日はかかると言われる中、76日間での定修を無事故、無災害で達成し、その後も順調に立ち上がった。これは当社の歴史、または世界の銅製錬業の中でも大きな業績だと思う。自溶炉更新は今後の鉱石の増処理や高負荷操業を可能とする体制構築に向けた第一歩。それができれば鉱石品位が低下しても最低限の銅回収量が維持できるし、コスト競争力も向上できる」

――電材加工事業については。

 「昨年は社会のAI、IoT化といった流れやスマホの高機能化などで需要が非常に好調だった。従来も主力事業には適宜能力増強を実施してきたが、スマホの上振れは想定以上だった。常に先をみた能力増強、品質改善が求められる中で、現在はそうした予測に修正をかけて万全の体制を構築すべく、取り組んでいる。需要は既存分野でも伸びているし、今後は医療や自動車の高機能化、自動運転化などの分野で関連部材や新製品の用途拡大を可能な限り図る。これは単独、もしくは他社との協業やM&Aも含めスピード感をもって取り組む。また、さまざまなアイディアを先取りすべく、技術本部を中心にオープンイノベーション的な取り組みなども推進している」

――すでに圧延銅箔などの増強を実施している。

 「倉見工場(神奈川県)を主体とする圧延銅箔、精密圧延品などの圧延系は18年度も好調が継続する見通しで、今の勢いであればそう遠くない時期に増強後の能力でも足りなくなる可能性がある。下振れリスクも怖いが、一番怖いのは上振れリスクで顧客の要望に応えられないこと。これに対しては品質改善と安定供給体制の確保を並行して進める。一方で、最近は素材の強みが日本の製造業の強みにつながるという認識が広がり、最終の需要家と直接接触できる機会も増えてきた。そうした機会を上手く活用しながら今後は提案型営業を積極的に展開し、既存事業の応用範囲の拡大や新規事業の創出などに生かしたい。そのためにもある程度の余裕キャパは必要だ」

 「一方、磯原工場(茨城県)を主体とするターゲット材などの半導体系は品ぞろえも重要だ。今後は量だけでなく製品ラインアップの拡充にも取り組む」

――電材加工以外での戦略投資は。

 「製錬は基本的に維持更新が中心となるが、ボトルネック解消などでの増産にはトライする。環境リサイクルも同様だが、上流も中流も潜在的な能力をきちんと引き出し、質を高めること。下流は物理的に能力が足りなくなる可能性があるのでライン増設などで必要な対策を打つ。その増産はBCPの観点から一部を海外という可能性もあるし、新規事業の展開としてM&Aも視野に入れているのでその買収先が海外ということもあり得る」(相楽 孝一)

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