本だけじゃない!荻窪の、心おどる3軒[荻窪は、本屋さんへ]

 本屋、とひと口にいっても、形態はさまざま。カフェがある店、イベントスペースをもつ店、ギャラリーで展示を行う店…本屋の枠にとらわれず人を集める、個性豊かな3軒を紹介!

6次元

一日中ひたれる、濃厚な読書空間

 線路沿いにひっそりとあるブックカフェ。店内は、本に囲まれたソファスペースと、読書に集中できるカウンタースペースに分かれる。店内に並ぶ本は、すべて店主のナカムラ クニオさんによってセレクトされ、古書から新刊までのさまざまな本が並ぶ。料金はチャージ制(2000円)で、一度入れば好きなだけ読書の時間にひたることができる。

店の前を通るのは中央線。窓から行き交う電車を見るのも楽しい
器はどれもナカムラさんセレクトの骨董品。なかには弥生時代の土器も
珈琲はセルフサービス。ナッツなどの軽食をつまむこともできる
オリジナルのコースターは、活版印刷の嘉瑞工房で刷られたもの。活字好きにはたまらない活字の数々が使用されている。各100円

ナカムラさんに聞く 6次元のこと

お客さんも関われるブックカフェを目指して

 6次元をつくろうと思ったきっかけは、旅先のパリでみた「シェイクスピア アンド カンパニー」という本屋なんです。四方を本に囲まれた魅力的な空間はもちろんですが、旅行客がふらっと行って泊まれたり、短期間だけ働けたり…という懐の広さが、当時衝撃的でした。そんなふうに、いろんな人が好きなように空間を使える、またそこで人と人が繋がれるような場所をつくりたいと思って、この店をはじめました。

 当時は、展示ができるブックカフェ、くらいに考えていましたが、あれよあれよとイベントが増えていき、ついにはお客さん発案の読書会まで行うように…。つい最近では、いしいしんじさんと朝吹真理子さんとお茶を飲む会、というイベントをやりました( 笑)。作者ともっと密にコミュニケーションを取れるイベントを増やしていくつもりです。

ナカムラさんオススメの2冊

『タラブックス』
著 : 野瀬 奈津子、松岡 宏大、矢萩 多聞 2200円 玄光社

 南インド・チェンナイにある手づくり絵本の出版社「タラブックス」の秘密に迫った本。紙は手漉きのもの、印刷も手刷りで、製本も手作業…と、徹底した手仕事の様子から働き方まで、インタビューを交えながら紹介されている

『持ち帰りたいインド』

著 : 松岡 宏大、野瀬 奈津子 1600円 誠文堂新光社
 チャイを飲む器などの民芸品や、レコードや車といった文化的なものを通じて、インドの人々の暮らしがよくわかる一冊。生活様式の解説とともに、インドの悠々とした風景が紹介されていて、インドへの旅に出かけたくなる

ROKUJIGEN

杉並区上荻1-10-3 2F
[営]19:00〜22:00
[休]不定休
※イベント時は随時ツイッターを確認
http://www.6jigen.com
twitter→@6jigent

Title

なつかしいのに発見がある“本屋さん”

 JR荻窪駅から歩いて10分ほどの距離にある新刊書店。大きなガラス窓に青色のひさしが目を引く、シンプルな佇まい。店内奥には約8席ほどのカフェがあり、2 階はギャラリースペースになっている。書架に並ぶ本は、すべて店主の辻山良雄さんによってセレクトされており、「生活」の本を中心に雑誌から文庫、ZINEまで幅広く並ぶ。

店内の書架や2階へ上る階段は、すべて木製で温かい雰囲気
カフェスペースでは、コーヒーやお酒、軽食が楽しめる。買ったばかりの本を、ここで読むのもいい
2階のスペースでは、写真や絵画を中心に展示を行う。約1ヵ月ほどで内容が変わるので、お見逃しなく

辻山さんに聞く タイトルのこと

本そのものの、変わらない魅力を伝えていく

 この店をつくろうと思ったとき、自分が長い時間いられて居心地のいい場所、と考えて思い浮かんだのが、荻窪でした。荻窪は、古くから小説家や編集者、出版関係の人など、本に理解のある人が多く住む街で、店を出す前から、自分もよく足を運んでいました。

 昨今、本は読まれなくなったとよく言われますが、もともと、読む人は読むし、読まない人は読まない、極端な世界だと思います。でも、必要な人にとっては、とても必要なもので、その人に深く関わる重要なもの。思っていたことを代弁してくれるような本だったり、新しい発見をくれるような本だったり…。ふとした時に、横にいてくれる存在として、これから先もあるものだと思います。

 若い人だけではなく、子どもからご高齢の方まで気兼ねなく入れる、昔ながらの本屋のような場所にしたい、と思っています。

辻山さんオススメの2冊

『読む時間』
著 : アンドレ・ケルテス 2200円 創元社

 ハンガリー出身の写真家、「アンドレ・ケルテス」が、ベッドの上で、本屋の前で…思い思いの場所で本を読む人々を切り取った写真集。その姿からは、“読む時間”を自由に謳歌する、好奇心に溢れた表情が垣間みえる

『365日のほん』
著 : 辻山 良雄 1400円 河出書房新社

 「考える本」「子どものための本」など、10ジャンルに分かれた365冊の本について、辻山さん自らの簡潔な言葉で紹介したブックガイド。新刊だけでなく、昔から読み継がれている名作もラインナップされ、読書欲をくすぐる

TITLE

杉並区桃井1-5-2
[TEL]03-6884-2894
[営]12:00〜21:00
[休]水・第三火曜
http://www.title-books.com

文禄堂 荻窪店

新しい本屋のかたちを目指す

「文禄堂」は、都内を中心に書店を展開する「あゆみBOOKS」の系列店。荻窪店の特徴は、入り口にたたずむ3輪自動車「ブックルート」。約400冊の本を積載して、地域の祭りやイベントに出かけて移動販売を行っている。店頭に並ぶ“街の本屋”ならではの幅広いラインナップの書籍に加え、漫画好きな大人に喜ばれるような漫画のセレクトも好評。

ドアを取り去った開放的な入り口に、3輪の「ブックルート」がこの店のアイコン
「ブックルート」の荷台には、フェア中の商品がずらりと並ぶ。 写真は「リアル アニマル フェア」開催時のもの
テントのように設えた店内の一角では、文房具や雑貨を販売する。プレゼントを探すのも楽しい

前田さんに聞く 文禄堂のこと

この街にしっかりとなじむ、街の本屋に

 この店は、2012年に「あゆみBOOKS」として荻窪にオープンし、2015年に今の屋号「文禄堂」としてリニューアルオープンしました。荻窪駅から近く、中規模の書店ということもあり、老若男女問わず幅広いお客さんが来店されます。そのため、文庫本や雑誌はもちろん、実用書や美術書など、できる限り様々なジャンルの本を手に取れるよう、心がけています。

 2015年のリニューアルの際には、お客さんがもっと足を運びやすい店になるように意識しました。入り口の開口部を大きくとり、思いきってドアを取りはらうことで、開放的で入りやすいつくりにしています。

 これからも、荻窪の魅力を吸収して、街に育てていただくことによって、ほかの地域の方々にも楽しめる品揃えができればと思っています。昔ながらの「街の本屋」でありながら、すこしずつ時代にあわせて変化していく、そんな本屋が目標です。

前田さんオススメの2冊

『宇宙探偵 ノーグレイ』
著 : 田中 啓文 740円 河出文庫

 5篇の話からなるSFミステリー。怪獣惑星で起きた人気怪獣の密室殺人…事件の解決を頼まれたのは、宇宙探偵 ノーグレイ! と、ごちゃまぜな世界観に翻弄されながらも、どんどん物語に惹きこまれてしまう

『異性』
著 : 角田光代、穂村弘 530円 河出文庫

 小説家の角田光代と歌人である穂村弘が、それぞれ女性と男性の立場から、異性のことについて綴るエッセイ。「外見と内面」や「好意」についてなど、ひとつの同じテーマでも、すれ違いが生まれる瞬間を考察していく

BUNROKUDO

杉並区荻窪5-30-6 福村産業ビル 1F
[TEL]03-3392-2271
[営]月〜土 9:00〜25:00 日・祝 10:00~24:00
[休]無休
http://bunrokudo.jp

© 株式会社産業経済新聞社