第8回:訓練がうまくいかない!をどうするか?(適用事例2) マンネリ化防止で意識向上

マンネリ化を防ぐことで訓練参加者の意識も変わる(写真はイメージです)

■「うまくいかない!」は万国共通の悩み?

以前、米国フロリダで行われた危機管理研修に参加した時のことです。先生が「みなさんの組織でいま問題となっていることは何でしょうか。隣同士で話し合ってみてください」と参加者に呼びかけました。“いま問題となっていること”とは、危機管理体制のことです。BCM(事業継続管理体制)と読みかえても左程間違いではないでしょう。

すると、隣に座っていたカナダから参加したという行政関係の人から声をかけられました。筆者は「自分は個人参加なので書くことがなくてねえ…。あなたのところでは?」と聞き返したら、その人は「私の組織ではテストがうまくいってないのです」と言いました。

よく聞いてみると、この「テスト」とは情報システムのディザスターリカバリ(災害復旧)に関わることらしいのですが、方法や手順に問題があるという意味ではなくて、その役割を担う担当者たちが、多忙にかこつけてなかなかテストに協力してくれないというのです。この研修では他にも、テストやドリル(訓練)がうまくいっていないと発言する参加者が何人かいました。

一方国内に目を向けると、危機管理部門やリスク対策室を持つ一部の大企業では、ある程度の予算を割いて計画的、継続的に訓練やテストを実施しているようですが、一般的にはなかなかコンスタントに実施するのがむずかしいのが現実。「うまくいっていない」というのは万国共通の悩みかもしれません。そこで、今回のテーマは「訓練を社内に習慣づけるためにはどうするか?」をPDCAのテーマとしてみようと思います。

■参加意欲の高まる訓練とは…

最初はPlanのステップです。ここでは「訓練がうまくいかない」原因を推定し、その原因を取り除くための解決策を導きます。Planのステップを場当たり的に行うと、「Do」や「Check」のステップに好ましくない影響を及ぼすことは前に述べた通りです。

さて、ひと口に「訓練がうまくいかない」と言っても、組織それぞれに意味合いが異なります。しかし多くの事例に共通しているのは、冒頭で述べたように関係者が訓練やテストに自ら進んで参加しない(あるいはできない)という現実です。なぜ参加しないのか? →本人が多忙だから、という理由だけでは十分ではありませんね。その裏にある真意をくみ取る必要がありそうです。よってここでは訓練参加者にヒヤリングもしくはアンケートをとり、これに「なぜ?」をぶつけて次のような結論を得たものとしましょう。

「なぜ訓練に参加しないのか?」→「訓練より仕事の方が大切だから」→「なぜ?」→「訓練に参加するだけの意義や価値が見えない」→「なぜ?」→「マンネリ化している」(ひとまずこれを結論とします)

同じことの繰り返しで訓練がマンネリ化し、参加意欲が減退しているというのが、このケースの根本的な原因らしいことが分かりました。では、マンネリ化を避けるためにはどんな工夫や対策を講じればよいのでしょうか。これには例えば「参加者全員にレポートを提出させる」「毎回訓練の想定を変える」といった工夫があるでしょう。

問題の原因と対策の道筋が見えてきたところで、次はSMART(第6回『Planの目標設定はスマートに決めよう』を参照)を意識してPlanを組み立てます。とくに目標設定はしっかりと。ここでは「訓練の参加率を前年比2割アップする」としましょう。

■「Do」はここがポイント

次はPDCAの「Do」の実行です。先ほど「参加者にレポートを提出させる」と「毎回訓練の想定を変える」の2つの対策オプションを導きましたが、このケースでは最終的にどちらの方法を選ぶかはあまり意味を持ちません。むしろ両者を組み合わせて試してみるのがベターでしょう。具体的な実行手順は次の通りです。

(1)参加者にレポートを提出させる
これまでの「やりっ放し」の訓練を改めました。参加者全員に用紙を配布し、気づいたことを記入してもらい、後日これらの意見を掲示して全社員が閲覧できるようにしました。

(2)毎回訓練の想定を変える
火災避難訓練などは毎年「給湯室」からの出火という同じ想定で行っていましたが、さまざまな想定外の出火場所(もちろん現実的に起こり得る場所として)を盛り込むことにしました。

そして(1)と(2)を取り入れた形で新しい訓練を実施したところ、次のことが分かりました。まず、今回は方法や手順を見直した直後の初めての訓練なので、参加率こそ前回と変わりませんでしたが、これまでとは異なる判断と行動が求められた参加者たちの間に、良い意味で緊張感が漂っていたことです。

また、訓練を体験した感想を書いてもらったところ、意外に多くの人からさまざまな意見が出されたことです。訓練のやり方についての要望や訓練から学んだこと、自分自身の反省点などなど。中には事務局も「なるほど!」と感心するような防災上の盲点を指摘してくれた意見や、「次回からは積極的に訓練に参加したい」と書いた参加者も少なくありませんでした。

■「Check」→「Act」の判定はどうなる?

前のステップでは、「Plan」の2つの対策オプションを「Do」を通じて実施したことにより、参加者の間にいくつかの変化をくみ取ることができました。次はこれらの変化をなるべく客観的に評価する「Check」のステップです。この事例における「Check」のポイントは、新しい方法や手順を通じて「訓練のマンネリ化を防ぐこと」はできたか、目標として設定した「訓練の参加率を前年比2割アップする」は達成できたかの2つです。

まず、「訓練のマンネリ化」を防止できたかどうかについては、事務局の観察と参加者の提出したレポートを集計した結果から推察できます。全体として前回よりも多くの参加者が緊張感を持って訓練に臨んだことが分かりました。また、全員の意見が社内掲示されたことで参加意識が高まったほか、「これまでの訓練とは少し違うぞ」という脱マンネリ感が得られたことは間違いありません。

また、「訓練の参加率を前年比2割アップする」という目標については、「次回以降の訓練にも積極的参加したい」という意見も少なからず見られました。このことから、今回はともかく、次回以降の訓練で達成できるのではないかと推察することができます。

さて最後は「Act」の判定です。マンネリ化を防ぐ2つの対策は、概ね功を奏しましました。また、参加者レポートから次回以降の訓練への参加率向上も見込めそうです。とは言え、これだけでは「ゴール」と見なすわけにはいきません。本当にうまくいくかどうかは次回以降の訓練で明らかになるからです。よって、訓練事務局の総合的な「Act」の判定は、次のようになりました。

今回の参加者の要望・意見をPDCAの次の「Plan」に取り入れながらこの新しい方式の訓練を次回も引き続き実施し、その効果を検証することにする。
 

(了)

 

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