【新春営業トップに聞く】〈新日鉄住金・佐伯康光副社長〉需給タイト「もう一段の値上げを」 「国内外の鉄鋼需要堅調」

――新年も2カ月が過ぎようとしていますが、昨年の振り返りも含めて、どんな年になりそうでしょうか?

 「世界鉄鋼協会によれば2017年の世界鋼材消費は16億2210万トン(16年比で7%増)と過去最高水準。中国での統計外の地条鋼削減による統計内生産の増加影響(6500万トンと試算)を除いても、世界計で前年比4千万トン増、率にして3%増となっている」

 「中国は政府によるインフラ投資をはじめ需要が好調。供給面では(1)過剰能力削減(2)地条鋼の淘汰(3)環境対策強化による冬季減産―などで需給バランスは引き続きタイトに推移している。中国からの鋼材輸出減により、アセアンなど海外マーケット全体もタイトとなっている」

新日鉄住金・佐伯副社長

――国内需要は。

 「自動車・産機をはじめとして製造業の活動は好調。オリンピック需要を含めた建築・土木向け需要も順調に現れている。総じて国内鋼材需要は堅調に推移しており、特に薄板製品・特殊鋼棒線などは極めてタイト感が強い状況が継続している」

――鉄鋼事業を取り巻く環境が明るい中で、新しい年が動き始めています。

 「世界経済は、米国・欧州では拡大傾向が継続し、中国は一部で緩やかな減速が予測されるものの底堅く推移するとみられる。朝鮮半島や中東地域での地政学リスクの高まりには注意が必要だが、世界経済は総じて堅調と見込まれる。昨年末に決まった米国の大型減税も短期的にはプラスの影響を及ぼすと期待している」

――鉄鋼需要も前年比で増えそうです。

 「18年の鉄鋼需要も引き続き堅調に推移すると見込まれる。製造業は世界的におおむね好調を維持しており、中国や新興国でのインフラ整備の進展による需要現出にも期待している」

――供給面は?

 「18年は、東アジアではベトナムFHS社の第2高炉(350万トン)等が稼働するが、一方で中国の過剰能力削減への構造的な対策も一定の進展を見せており、グローバル・フォーラムでの議論などを含めて注視は必要ながら、需給バランスにも好影響を与えている」

――18年度の日本国内の需要を主な分野別にどうみていますか?

 「建設分野は非住宅分野の増加が寄与して前年比微増、製造業分野では設備投資関連の機械関連需要が堅調。自動車は高水準が見込まれる17年度との比較では若干のマイナスになると見込まれるが、製造業全体では前年度並みの水準となり、内需全体では微増と見込まれる」

――原料価格では、市況原料の動きが気になります。

 「主原料は、原料炭は一時260ドルレベルまで上昇し、足元も依然として水準は高い。鉄鉱石も上昇傾向にある。1~3月は南半球で例年サイクロンが発生しやすい時期であり、引き続き注視が必要だ」

 「ここにきて市況原料、資材費、物流費といったコストプッシュ要因が目立っている。市況原料では鉄スクラップ、亜鉛、銅、錫、石油など。資材では耐火物原料や黒鉛電極などのコストが急上昇している」

 「国内外で堅調に推移する鋼材需要やこうしたさまざまなコストプッシュ要因を考えれば、鋼材市況は一段と上伸するはずだ」

――そうした環境下で、新日鉄住金の営業部門が18年度に重点的に取り組むことは?

 「17年度は再生産可能な適正マージンの実現に向けてお客様の理解を頂けるよう丁寧に対話を積み重ねてきた。日本国内の鋼材価格は国際的に見ても低位と言わざるを得ず、お客様にもこれまでマージン改善のためのトン5千円程度の値上げをお願いしてきており、引き続きその完遂に全力を注ぎたい」

 「18年度は適正マージンの実現に加えて、非常にタイトに推移している需給環境、主原料・市況原料や資材費、物流費などのコストプッシュを踏まえて、さらなる値上げをお願いせざるを得ないと考えている」

――ヒモ付き価格の改善が大きな課題との指摘があるが、どのように受け止めていますか。アナリストレポートなどによると、例えば自動車用鋼材ではトン100~200ドルの価格差があり、日本材が大幅劣位(低位)と言われていますが。

 「個別の取引内容についてはコメントできないが、かつてヒモ付き分野の国内向け価格は総じて国際比価で高いと言われてきた。それが、今では逆に国内向けの方が大幅に安いとの認識だ」

 「こういった点も十分に議論させていただき、ご理解いただけるように努めていきたい」

「国際比価での劣位を是正」/海外事業、より一層の収益貢献へ

――18年度の新日鉄住金の生産販売数量は17年度比で増えるでしょうか?

 「当社の17年度は、各種の設備トラブルの影響により、需要に見合う十分な生産・販売量を確保できておらず、お客様・流通各位にはご迷惑をおかけしている。設備トラブルの原因究明と対策を十分に行うことで、18年度の販売量は17年度以上を目指し、好調に推移する国内外の需要分野に対して万全の対応を図っていきたい」

――18年の海外事業の展望について。

 「ここ数年で立ち上げた多くの海外製造拠点が安定的に稼働し始めており、確実に戦力化してきている。これらを中心に、当社が得意とするハイエンド分野の需要を捕捉し、より一層収益へ貢献できる体制の拡充を図りたい」

――中長期を見据えた需要構造の変化(メガトレンド変化)に対する問題意識などを聞きたい。

 「自動車業界でのEVシフトの進展や自動運転など新技術の台頭、シェアリングエコノミーの普及、IoTなどを活用した第四次産業革命とも言われる産業構造自体の大規模かつ急速な変化などを注視している。参画するプレーヤーやビジネスモデル自体が、早いスピードで大きな変化を迎えようとしている中で、素材に求められるニーズの質的・量的変化をしっかりと見極めていきたい」

 「昨今ではアルミや樹脂、炭素繊維といった素材や、それらを組み合わせたマルチマテリアルへの関心が急速に高まってきているが、改めて鉄の素材としての魅力、すなわち(1)靱性・加工性・強度を兼ね備えるという極めて有用な特性(2)製造から使用・廃棄後の再利用までのライフサイクル全体で見て消費エネルギーや環境負荷が少ない―といった優れた特長をより引き出し、アピールしていきたい」

 「世界鉄鋼協会は、今の世界16億トンの鋼材需要が2035年には19億トンに増えるとの見通しを持っている。毎年2千万トン程度伸びていく計算だ。鉄の持つポテンシャルのさらなる具現化を通じて、鉄の需要の一層の喚起や創出にも努めていきたい」
(一柳 朋紀)

© 株式会社鉄鋼新聞社