【JFEスチール データサイエンス活用戦略】〈渡辺敦専務に聞く〉高炉、熱延ミルにAI導入 トラブル回避で生産性向上

 JFEスチールが国内製鉄所の競争力強化に向けて先端IT(情報技術)の活用に力を入れている。高炉や熱延鋼板ミルへの人工知能(AI)の導入は一例だ。昨年10月に本社に新設した「データサイエンスプロジェクト部」を管掌する渡辺敦専務に、活用戦略や課題を聞いた。(石川 勇吉)

――製鉄所で活用するデータサイエンスとはどんな技術を指すのか。

 「AIやビッグデータ解析、仮想現実、ロボティクスなど先端IT領域の技術を総じてこう呼んでいる。センサーや無線給電、自動運転、IoTといった関連技術と合わせて技術開発戦略を策定・指揮したり、データサイエンティストの育成を先導するのがデータサイエンスプロジェクト部の役目になる。設備投資フェーズに入った案件も増えてきた。確実に競争力強化につなげたい」

JFEスチール・渡辺専務

――具体的に製鉄所でどう生かすのか。

 「例えば足元では『高炉の見える化』というテーマで技術開発に取り組んでいる。高炉の内部は直接観察できないブラックボックス。最新センサーで収集する膨大なデータやAIのディープラーニングなどを活用したモデルを構築し、刻々と変化する高炉内部をほぼリアルタイムで見えるようする。異常の高精度な予知など現場社員に操業ガイダンスを与えるシステムとして2020年度までに実現を目指す。まずは数十億円かけて全8基の高炉に新しいセンサーを取り付け、必要なデータを収集できるようにする。1980年代の高炉でのAI活用は効果が限定的だったが、現在はより膨大なデータの複雑な解析を迅速に行える。まだ開発段階だが、おもしろい知見が得られている」

 「鉄鉱石の低品位化が進んでいるため、高炉の原料装入条件はこれまで以上に工夫が必要になる。ただ条件変更は高炉の不調を招くリスクを伴う。AIで高炉の変調を予知できれば、条件を変えても健全な操業状態を維持できる。裏返せば、より最適な原料条件を積極的に模索できるようになり、操業コストを下げられる」

――高炉以外での活用策は。

 「生産プロセスでは熱延鋼板ミルなどにもAIやIoTを活用する。異常や故障の予兆検知に応用し生産性を引き上げる」

 「現場の安全や設備保全、物流も大きなテーマだ。安全では1人作業の見守りに生かす。作業者のスマートデバイスから得られる3次元位置情報や心拍数などをAIが解析し、異常をいち早く検知し事故やトラブルを未然に防ぎやすくする。危険源に近づくと警告を発する仕組みも有効だろう。設備保全ではタブレット型端末の活用を始めた。設備の故障状況を音声入力すると、AIが最適な復旧手法を自動で提示する。17年1月に西日本製鉄所倉敷地区の冷延工程の制御部門に導入し、経験の浅い社員でも迅速な設備復旧がしやすいと確かめた。3月までに全社の電機制御系の設備保全部門に水平展開する予定だ。製鉄所内の構内物流にもデータサイエンスやロボティクスを取り入れ、一部の物流工程の無人化も視野に入れたい」

コスト削減、数百億円規模

――データサイエンス分野の投資効果は。

 「18~20年度までの次期中期経営計画ではこの分野の実機化案件が重要テーマだけで50件を超す。投資効果を金額換算するのはなかなか難しいが、より効率的な業務運営が可能になるのは間違いない。あくまで期待値だが、最終的には年間数百億円規模のコスト削減につながるとみている」

――課題は。

 「多数の社員が同時にさまざまなシステムを利用することになる。膨大なデータを安全かつスムーズに送受信したり蓄積するための基盤整備は大きな課題だ。JFEシステムズやエクサなどのグループ会社、通信会社とも協業し精力的に取り組む」

――専門人材の確保・育成はどうか。

 「データサイエンティストは現在、社内に50人程度いる。人材育成や中途採用を通じて20年度までに3倍の約150人に増やす方針だ。データサイエンスプロジェクト部は人材育成機能も持つ。実務を通じた人材育成はもちろん、この分野に詳しい大学や研究機関に社員を一定期間派遣する取り組みも進める」

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