【JX金属の中長期戦略】〈大井滋社長に聞く(下)〉廃リチウム電池、リサイクル技術、早期実用化 下流事業で収益の半分稼ぐ体制に

――環境リサイクル事業の戦略は。

 「リサイクル事業も量ではなく質を追求する。例えば、ある技術を用いればリサイクル可能な原料、収益性が高いもの。またはトン当たりの有価物含有量が少ないものは前処理としてAIによる物理選別を用いるなどの取り組みも検討している。また、この事業でも処理方法などで回収先に提案型のビジネスができると考えている」

――廃リチウムイオン電池のリサイクル技術開発の現状は。

JX金属・大井社長下

 「電気自動車(EV)の電池素材ではコバルトもそうだが、リチウムも将来の供給に不安があるため、皆が確保に向けて動き始めており、リサイクルのニーズも高まっている。そうした中で当社の技術も10年近い実証を経て実用化がみえてきた。当社の技術はニッケル、コバルト、マンガン、リチウムのすべてを回収できるのが特長だ。技術的にはおおむね確立しており、残る課題は回収金属をより高品質化すること。それもあと一歩の段階で、これが完成すれば電池の完全循環が可能となる。EV化が加速する中、当社への期待に応えるべく、一日も早い事業化を目指す」

 「後は回収の安定化も含め経済性があるか、車載用として安定的に満足した品質を出せるかなどを確認する必要がある。少なくともある年限は継続的に事業が成り立つ見通しが肝要で、その確信を得るための作業を進めている段階だ」

――電装化進展で自動車の有価金属比率も高まる。このリサイクルの取り組みは。

 「EVリサイクルの本格化はまだ先だが、とりわけモーターの銅線を今後どういう流通ルートで確保できるか。これは自動車会社などにアプローチし、ネットワークづくりをしておく必要があるかもしれない。将来的に使用済EVが一定水準で出てくるとすれば電池の回収だけでなく、そうした仕組みづくりも必要になるのではないか」

――リサイクル原料の集荷の取り組みは。

 「当社と共通の考えを持つパートナーと連携を強化し、着々と取り組む。例えば物理選別の活用などでもネットワークが重要だし、多方面でウィンウィンの関係を構築したい。そうすれば、さまざまな情報も効率的に得られる」

 「物理選別は、規模は別としても中計期間内に始めたい。リサイクル原料の量的な追及は相当なレベルにきている。むしろ今後は厳選したリサイクル原料を選別的に、場合によっては自身で選別してお客さんのニーズに応えること。これも単独、あるいはグループ会社、パートナーと連携して取り組んでいけば可能だと思う」

――昨年、ドイツに事務所を新設した。

 「下流の出先機関としての役割に加え、欧州の企業・機関とのさまざまな連携推進や欧州の動向を下流だけでなく上流、中流の視点で見る必要があると考えたためだ。既存拠点と併せてグローバルにカバーできる体制を作り上げ、長期目標である銅を中心としたグローバルな非鉄企業を目指すための一環でもある」

――1月に新設した品質管理部の役割は。

 「15年に設置したリスクマネジメント会議で品質問題も含めてさまざまなリスク対応を行ってきたが、そこで一昨年も昨年も品質に問題がなかったことは確認済みだし、品質検査に人為的な介入ができないシステムもおおむね確立している。今後は品質管理部を中心に、最新機器の導入なども含め全社的な視点で品質管理体制をより強化する。高い品質だけでなく、それを保証する体制が整っていることも強みにできればと思う」

――人材の確保・育成も課題です。

 「大学生や専門家に加え、小中学生や父兄、女性など広く一般にも非鉄産業の重要性を理解してもらえるような啓蒙活動に注力している。一方で、入社してもらったからには各分野、適性に応じたキャリアパスを用意するとともに、働きやすい職場の整備や制度改善、教育機会の提供などは行う。後は主体的に努力し、最終的に経営幹部を目指してもらいたい。また、組織の活性化には中間層の厚みが重要だというのが私の持論。人事評価制度の改善などでそうした活性化を促したい」

――銅価が引き続き堅調に推移しており、中計の目標達成に追い風となりそうです。

 「足元の好環境に浮かれることなく、常に将来の布石が打てているかという中長期の視点で物事を判断することが重要だ。よほど大きな環境変化がない限り、この中計期間は長期ビジョンに基づいた動きを粛々と推し進める。その中でも下流事業で収益の最低半分をカバーできる体制の構築については着実に進展しており、その比率も高まってきた。これは60%を超えても良いと考えている」

 「足元の銅価は投機資金の流入による影響も大きいだろうが、銅の需給環境は均衡から不足気味で推移しており、需要が伸びていくのも間違いない。むしろ課題は供給で、鉱山大手トップも開発コストの上昇などから銅価が350セントの水準である程度安定的な見通しにならないと新規投資が難しいと言っている。私もその通りだと思うし、一時的にはもう一段高くならないと安定性は見通せないと考えている。今後は単独というよりはリスク分散を含め複数での開発に向かう時代になってきたのではないか」(相楽 孝一)

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