スポーツビジネスの貴重な事例に? 楽天、球団4度目の黒字達成の舞台裏

4度目となる球団経営の黒字化に成功した楽天【写真提供:東北楽天ゴールデンイーグルス】

これまでよりも難しい条件下で黒字を達成した楽天

 楽天イーグルスが2005年、13年、14年に続く4度目となる球団経営の黒字化に成功した。17年は過去最多の177万人の観客動員を記録。もたらされた総売上はやはり過去最高の139億円に達し、総支出の138億円を上回った。売上の139億円はチームが創設された05年の74億円の倍に迫る額だった(※13年は120億円、14年は135億円)。

 球団経営は、選手年俸や職員の給与、球場使用料、新たな施設の取得や改修などに要した費用を使用可能年数に合わせ配分した減価償却費などの支出と、入場料やスポンサー収入、グッズ販売、球場内飲食、試合の放映権販売などの売上のバランスをとる形で行われる。

 楽天は過去にも3度黒字を達成しているが、創設初年度だった05年は設備投資にかかる費用がほぼ生じていなかった。日本一となった13年はクライマックスシリーズ、日本シリーズとポストシーズンの主催試合による収入が発生。14年は田中将大(現ヤンキース)のポスティング移籍に伴う譲渡金収入が生じていた。

 それに対し17年は、14年から16年にかけて大規模に行った球場改修(スタンド増設、観覧車の設置、スコアボードビジョンシステムのリニューアル、天然芝化、2軍施設の増強など)に費やした総額80億円に及ぶ費用の減価償却費(10億円)を支出として計上した上での黒字となる。また売上の見込めるポストシーズンの主催試合や移籍金収入もなかった。過去3度よりも厳しい条件を乗り越えて達成した、価値ある黒字ということができる。

「ファンに愛されるために」を全職員で考え続けた成果

 楽天はここ数年、毎年のようにファンを楽しませるための攻めの投資を行い、それを売上につなげていくサイクルを模索。プロ野球のフランチャイズとしてはコンパクトな部類に入る仙台という都市でスポーツビジネスが“回せる”ということを証明して見せた。これは日本のスポーツビジネスの可能性を広げる貴重な事例となるに違いない。

 なぜこうした成果を挙げられたのか。球団によれば、何か特別な経営施策が功を奏したわけではないという。もちろん宮城県のバックアップによって、球場使用料を抑えるとともに本拠地球場の営業権を取得し、サービスの提供での高い自由度を手にできているアドバンテージは計り知れない。ただ基本的には、いかにしてファンに愛される球団をつくり、チケットを買ってもらうかを全職員で考え続けてきたことが成果を導いたというのが、実際のところであるようだ。

 職員はいつでも観客動員やチケットの販売状況に注意を払っており、前売りチケットの売れ行きが悪いカードがあれば、立場を問わずチケットを売るために駆け回る。選手のサポートを主な仕事とするチームスタッフであっても、役職者であっても、分け隔てなくチケット販売に参加するカルチャーが生まれているという。

「いかにファンに球場に足を運んでもらうか」という命題に対する責任を全職員が意識し、それを果たすためのアクションを続けていく。球団職員にとっての“原点”といってもよい努力が、今回の黒字達成の裏側にはあったようだ。

(山岡則夫 / Norio Yamaoka)

山岡則夫 プロフィール
 1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を定期的に更新中。

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