<「新人」あと1カ月>

 「ございます」なのに。洋服店の人に聞いた話がある。新米の頃、お客に言ってしまった。「出口はこちらでござる」。楽しいお客だったらしい。「かたじけない」と言って去った▲作家の井上ひさしさんが動物園に行くと、若い係員が「危険なので動物の餌を取らないでください」と注意していた、とエッセーにある。餌を取る人なんて相当な猛者なのだが。「やらないで」を言い損なって▲きちんとやろうとすればするほど…。新人さんがやらかした失敗の多くは、緊張の余り生み出されたものだろう。経験からすると、これがだんだん「漫然とする余り」に変わるから恐い…などとは言わずにおく▲少し前の調査なのだが、生命保険会社が入社して1年になる社会人に聞いたところ、85%は仕事で失敗したことが「ある」と答えた。裏返せば15%は「ない」の?-と少々驚くが「大過なく」くらいの意味だろうか▲先輩にため口をきいた、上司のはんこ欄に押印した。失敗例ならばさまざまある。きょうで2月が終わる。昨春、社会に出た人が「新人」と呼ばれるのも、あと1カ月▲「恐れ入ります」と「申し訳ありません」の合体か、言い間違いの例がある。「恐れ入りません」。恐れず、ひるまず、内心では謙虚に恐れ入って。時に赤面しながら強くなる季節である。(徹)

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