「僕は今、ローテーション投手ではない」 中日・吉見が明かす胸中、滲む決意

中日・吉見一起【写真:荒川祐史】

今年の吉見一起は何かをやってくれる― 言葉に滲む33歳の決意

 18年シーズン、中日で最も気持ちの入っているのはこの投手ではないだろうか。吉見一起。入団以来83勝を挙げている右腕は、本来の輝きを取り戻そうとしている。 

「僕は今、ローテーション投手ではないから。毎日、必死にトレーニングしてコンディショニングを維持して、結果を残し続けないといけない。少しも気を抜けるような状況にはない」 

 冗談まじりではなく、真剣な表情で語る姿に驚かされた。安定感抜群の投球で強豪・中日を牽引。数々のタイトルも受賞してきた。最多勝(09、11年)、最優秀防御率(11年)……。今でも「エース」と呼ぶにふさわしい、存在感があるにも関わらずだ。しかし下半身、肩やヒジの故障、手術などの影響もあるのか、以前のような輝きを発揮できずにいるのも事実である。 

「冷静に見て僕よりいい投手が何人もいるじゃないですか。僕が監督なら間違いなくそっちの投手を使う。実際、ここ数年はまったく結果を残せていない。その間にチームも低迷している。本当に責任を感じていますよ。今自身の僕は『1軍にいていいのか』すら、わからない立場。だからとにかく結果を出すしかない」 

 左腕・小笠原慎之介、大野雄大に加え、若手の柳裕也の台頭もある。ローテーション入りが確約されている立場ではないのは本人が十二分に理解している。 

松坂加入に沸く中日、「勉強になることだらけ」

 今年の中日は松坂大輔の加入もあって騒がしい。松坂の周囲には常にメディアやファンが寄り添っているが、復活を期する吉見の周囲はどこか静かである。 

「松坂さんは自分も実際に見ていた素晴らしい投手。僕とは比較対象にすらならない。注目度がまったく異なるのは当然のこと。逆に自分のペースでしっかりやることができていますけどね」 

「実際に投げているのを見て、本当にスゴいボールを投げる。野球への取り組み方もそうだし、勉強になることだらけ。投手としてのタイプもまったく異なる。実績も大きく異なる。でも、そんな人と同じ環境に一緒にいられるんだから、少しでも多くのことを吸収したいと思っています」 

 日米通算164勝の“レジェンド”の加入は吉見をはじめ、中日投手陣にとって大きな刺激となっている。 

 新加入した松坂はまさに“豪腕”のイメージ。吉見のそれはまさに対極にあると言ってもいい。ストロングポイントは『狙ったところ』に正確に投げ分ける制球力。それこそが大崩れしない安定感の高さに直結してきた。

基本は「ストレート」、「打者を翻弄する真っ直ぐを投げたい」

「自分のセールスポイントはやはり制球力。マウンド上では、『そこへ狙って投げる』という感じではなく、『そこに行く』というようにしたい。下半身がしっかり使えて投球フォームが安定していればそれは自然にできること。それを最も大事にしている」 

「言葉にするのは難しいですが、下半身が使えるという感覚は、『使う』というより『使えている』という感じ。そうすれば足を上げた時点で捕手までのラインがイメージできる。あとはそのライン上に身体を乗せるだけ。だから下半身を強く意識してそこに重心を乗せるというイメージはない」 

 制球力の高さに加えて、豊富な球種も持ち味。カーブ、フォーク、パームなど多種多様なボールのすべてが高水準。しかしそれらすべてのベースとなるのは、やはりストレートである。 

「基本になるのはやはりストレート。球速はなくても一番大事な球です。球速にこだわりはないのですが、ストレートにこだわりがないわけではない。回転がよく、打者を翻弄する真っ直ぐを投げたい。それがあるから制球も変化球も活きて来る」 

「自分の中ではすべての球種を、打者に対して真っ直ぐと同じように見せることが理想。故障もあって、ここのところはそれができなかった。真っ直ぐと変化球の違いが分かりやすいから打者もとらえやすい」 

新シーズンにかける決意、「自分自身でも情けない」

「不動心」とでも呼ぶのだろうか。何があっても揺れずにブレない心。33歳を迎え、年齢的にはベテランと呼ばれる域にさしかかっている。しかしキャリアを重ねるにつれて、これまで以上にメンタル面の安定度が高まっているようにも見える。 

「野球は基本的には自分自身との勝負だと思う。『打者を抑えよう』と思うのではなく、『ここはゴロに。ここはフライに』と具体的に考える。そのために球種、コース、高さなど細かいところまで考える。結果的に野手の間を抜けたりして結果が悪くなってもそれはしょうがない。そういう結果で一喜一憂しないようにしたい」 

「やっぱりモチベーションって大事。故障をして投げられない時期が長い。そんな中で、いかに気持ちを切らさないでやっていけるか、だと思う。期待してもらっている方々には申し訳ない気持ちが強い。自分自身でも情けない。だからこそ気持ちをしっかり強く持ってやりたい」 

「白黒は自分で決めることはできないから。とにかく今の自分にできることをやるだけ。それしか考えられない」 

 最後の言葉から今シーズンにかけている想いが伝わってくる。『白黒』が何を意味しているのかはわからない。だが本人は相当な決意を持って取り組んでいる。今年の吉見一起は何かをやってくれるような気がする。その時には、間違いなく強いドラゴンズが戻ってくるはずだ。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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