「こんなことは初めて」―もがき苦しむ世代最高の左腕、2016年燕ドラ1の今

ヤクルト・寺島成輝【写真:荒川祐史】

2016年のドラ1寺島、キャンプ中の紅白戦で炎上「頭の中が真っ白に」

 高校時代は他を寄せ付けない世代トップクラスの左腕として足跡を残したヤクルトの寺島成輝投手が、プロの世界に入ってからもがき苦しんでいる。ルーキーだった昨季のキャンプでは1軍スタートを切るも、半ばに左内転筋筋膜症を発症。肘痛などもあり、以降は実戦マウンドから遠ざかった。8月に2軍戦に初登板し、9月には1軍のマウンドを経験したものの、3回5失点で降板。シーズンオフには台湾でのウインターリーグに参加して技を磨き、満を持して2年目のシーズンを迎えた。

 今季のキャンプでは順調に調整を続けていると思われたが、9日の紅白戦では2回途中までに6点を失い、予定より早く降板した。

 その日から約10日が経過したキャンプ第4クール初日。当時のことについて尋ねると、悔しさをにじませながら寺島が口を開いた。

「あの時は……マウンドを降りてからも頭の中が真っ白で。野球をやってきて、迷ってしまう時期はどこかで来るんだろうけれど、こういう時にどれだけ修正できるかだと思いました。今まではストライクが入らないと思ったら、少し修正をすれば何とかなっていました。良いイメージを浮かべて調整していったら……。でも、今はどれだけ必死に腕を振ろうとしてもなかなか振れないんです。こんなことは初めてです」

 プロに入って体が大きくなったことで、これまでのような体の使い方では通用しなくなる場合がある、と言う者もいる。確かにそうだ。筋肉のつき方が変わると、それぞれの部位にかかる負担も変わる。これまでは抑えられていたフォームでも、“肉体改造”の仕方次第では抑えがきかなくなることもある。それに気づいた寺島は、以降何度も何度もフォームを確認した。そんな中、ある“こだわり”も口にする。

持ち続ける“こだわり”「ストレートで勝負できるように」

「ストレートの質にこだわっていきたいと、ピッチングコーチと話していたんです。球が低めに垂れてしまったら腕をしっかり振る。その振り方もしっかり見直して、ひとつひとつをクリアしていく。今はそれしかないです」

 寺島といえば、高校時代は150キロのストレートにキレのあるスライダーを織り交ぜ、打者をねじ伏せてきた。履正社では1年夏からマウンドに立ち、経験のある上級生投手を差し置いてその秋からエースに。3年夏の甲子園で見せた、ストレートで押す気迫を前面に出したピッチングは記憶に新しい。

「追い込む練習の中でやっているから、そう(紅白戦で打たれた)なったんでしょうけれど、それはみんな同じ。高校生相手で出来ていてもプロのバッター相手となるとそうはいかない。入団前から覚悟していたとはいえ、現実になってしまうと何も出来ていなくて……。でも、ストレートで勝負できるようになる。これは大前提です。自分の最大限のスピードを出せるようにして、その中で変化球でもちゃんとストライクを取れるようになりたいです」

 その日はブルペンで43球を投げ、感触を確かめた。時折球が抜けていたのは気になるが、日を重ねるごとにコーチからは「腕は振れるようになってきた」と言われているという。21日の巨人との練習試合では2回を投げ1失点だったが、2奪三振、無四球と数字は悪くはない。

 昨年、甲子園で投げ合った藤平尚真(楽天)は一足先に1軍で勝利を挙げた。「早く感覚を掴んでいきたい」と語気を強める左腕の表情には、ただならぬ“覚悟”が漂っていた。

(Full-Count編集部)

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