3月

 ふわふわの綿毛に包まれて開花を待つモクレンのつぼみが強い風と雨に揺れている。風の冷たさが和らいで、そういえば、こんな荒れ模様の天気も多い季節だった-と思い出した。長崎には珍しく雪の心配も続いて、いつもより長く感じた冬が終わる。きょうから3月▲モクレンといえば…。〈逢(あ)いたくて逢いたくて/この胸のささやきが/あなたを探している/あなたを呼んでいる〉-来年で結成から40年、息の長い音楽活動を続ける「スターダスト・レビュー」の代表作に「木蘭の涙」という曲がある▲愛する人との死別をうたったきれいで、悲しい曲だ。〈いつまでもいつまでも/側(そば)にいると言ってた/あなたは嘘(うそ)つきだね/わたしを置き去りに〉-帰らぬ人に「嘘つき」と語り掛ける印象的な歌詞、ご記憶の方も多かろう▲「昭和の名曲」と書きかけて、念のため…と手が止まる。調べてみると1993年の発表。昭和は4年前に終わっていた▲大災害を繰り返し経験した「平成」の日本。突然牙をむいた自然は数えきれない命を一度に“嘘つき”にしてしまう▲久しぶりに曲を聴いてみた。逢いたくて「あなた」を探し「あなた」を呼ぶ人の無念を思う。いつまでも側に-の約束を果たせなかった人の無念が胸に迫る。この国の3月は、そんな月になった。(智)

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