大阪府豊中市の国有地が、新たなごみの撤去費として約8億2000万円を値引きして学校法人「森友学園」に払い下げられた問題。近畿財務局や大阪航空局など国の担当者に対する背任罪の告発状を受理している大阪地検特捜部の立件判断に、注目が集まっている。
松宮孝明立命館大法科大学院教授は、阪口徳雄弁護士ら大阪で森友問題を追及してきたグループによる告発状に意見書を書いた人物だ。すでに捜査開始から1年。「背任罪は難しくないが、起訴されれば画期的だ」と話す松宮氏に見解を聞いた。(共同通信=大阪社会部・真下周、植田純司)
▽ハードル高くない
―立件判断が関心事になっている。
「検察内部のことは分からないが、外形的事実で言うと間違いなくだれかが背任行為をしている」
「背任罪が適用されれば、解釈としては今までの判例の延長上にある。ただ、公務員に適用されるという意味、また政権に与える打撃が大きいという意味において画期的なことだろう」
―不起訴の可能性も。
「不起訴なら嫌疑不十分が理由だろう。『損害額を十分に確定できなかった』とか『図利加害目的(自己や第三者の利益を図るか、他人に損害を与えようとすること)が認められない』とかの釈明が想定されるが、どれくらい資料をそろえた上で言ってくるか注目だ」
「不起訴になれば検察審査会に回される。そこで使われる証拠資料も検察が集めたものになる。捜査に時間をかけているが、検審で『不起訴不当』と言われない程度に捜査の形を整えようということなら、問題だ」
―意見書の内容は。
「最初に背任罪の歴史を書いた。他人の財産管理をしっかりしなさいとの趣旨でつくられた規定だ。古くは後見人制度、19世紀の終わりに会社制度が発達し一般化された。日本ではまだ判例も少なく、まともな解釈論もないが、歴史的にどう整理されていったかをまとめた」
―背任罪の適用はハードルが高いと言われる。
「それは誤り。背任罪には『任務違背』『図利加害目的』『財産上の損害』があることが必要だが、図利加害目的を証明するハードルが高いという伝説が、法律専門家の間にはびこっている」
「若い検事ほど、経験があまりないからハードルの高さを感じるようだ。だが背任罪の判例の積み重ねから言うと、図利加害の目的犯といいながら『図利加害の事実の認識』があれば適用できる方向に、解釈を広げてきている」
▽適正価格で売ればよかった
―背任罪の成立に必要な要件とは。
「まず『任務違背』があることが前提。財務局の担当者の任務は、国民の財産を管理することだ。不当に安く売って国に損害を与えないことが職務上、求められている」
―結果的に損害が生じたら任務違背になるか。
「そうではない。民間ではリスクを負う取引を普通にやっており、許される範囲のリスク(「許された危険」)で損害を与えたとしても、任務違背には当たらない」
―今回の取引でリスクは。
「なかった。単純な土地売買であり、適正価格で売ればよかっただけ。リスクを冒しながらもうけを図る取引ではなく、許されるリスクもすごく小さくなるはずだ」
―会計検査院の報告書は「値引きの根拠が不十分」としながら、実際の損害額を言わず「適正価格」にも幅を持たせた。
「ごみの量や処理にかかる費用を合理的に算定することで値引き額は決まるものだ。近畿財務局には、任務違背にならないように、適正価格かどうか調査する義務があった」
―「(ごみがどれくらい含まれているか)改めて調査していたら、開校が遅れる」と籠池泰典前理事長らに言われ、国として調べることはせず大幅な値引きに応じることで交渉を前に進めた経緯があるようだが。
「理由にならない。大学の学科新設などで国から認可を先延ばしにされるケースは何度も見てきた。なんだかんだと不備を指摘され、開設が延期になることは珍しくない。その間、学生は入学せず学費収入もないが、延期になったからと言って国を相手に訴訟を起こした話はほとんど聞いたことがない」
―本件での「図利加害目的」とは。
「国の担当者は売却によって国民の財産が大きく減ることは分かっており、学園が不当な利益を得るとの確定的な認識もあった。学園のために、という積極的な動機は必要なく、相手が不当に得することの認識があっただけで十分だ」
「捜査当局はそれ以外に、何か不当なことや悪いことを働く動機を求めがちだが、実際には必要ない」