【ニュースの周辺】〈JX金属、タンタル・ニオブ事業会社を独社から買収〉シナジー追求と新規事業創出へ 将来的にはレアメタル素材群を拡大

 JX金属(社長・大井滋氏)が独H・Cスタルク社からタンタル・ニオブ事業を行う子会社「HCS・TaNb社」を買収することで合意した。タンタル粉で世界最大手、ニオブ粉で世界2位のHCS・TaNbを傘下とすることで重要施策の一つと位置付ける電材加工事業の事業規模拡大と技術立脚型事業群の育成に資すると判断したものだ。

 大井社長は買収効果について「キャパシタやSAWフィルター向けのパウダーなどIoT分野で成長が見込まれる製品を製品ラインアップに加えることができる。また、HCS・TaNb社は3Dプリンター向けや医療分野向けなど新規分野での積極的なR&D活動を行っており、新規事業の創出も期待でき、当社グループの事業やR&D部門とのシナジーでより大きな効果が得られると考えた」と話す。さらに「同社は欧米を中心とする大学や研究機関とも強力なネットワークを有し、当社全体の技術レベルの向上への貢献も見込める。

 また、同社が本拠を構えるドイツには自動車や電機などIoT関連産業が集積しており、同社の拠点やネットワークは当社の既存事業でも活用できる。例えばこれまでアクセスが難しかったところにもアクセス可能になる」と期待する。

 HCS・TaNb社は半導体用ターゲット材やキャパシタ、SAWフィルター向けのタンタル粉、合金添加用などのニオブ粉などが主力事業。ドイツに製錬所を有するほか、タイと日本にも一部工程を手掛ける工場がある。JX金属とはもともとターゲット向けのタンタル粉で取引関係があり、2年ほど前から買収協議を進めていた。JX金属は成長戦略の一つの選択肢として既存事業とシナジーが見込め、新規事業の拡大が見込める会社に対するM&Aを検討しているところだった。

 今回の買収によってJX金属にとってはタンタル原料の供給体制が盤石なものになるというメリットがある。また、両社の事業や製品、技術などはさまざまな面で親和性が高く、シナジーを生み出す条件も整っている。大井社長は「HCS・TaNbの製造プロセスは鉱石原料やリサイクル原料を製錬、精製し、電子材料向けに高純度化するというもので銅製錬をコアとする当社の要素技術と重なる部分が多くある」と説明し、「両社技術の応用展開などを通じて双方の技術レベルの向上につなげたい。人材面でもHCS・TaNbが抱える優れた研究開発者というリソースも活用させてもらいたい」と述べた。

 JX金属としては、まずはタンタル・ニオブ事業の基盤固めとシナジーの追求に取り組みつつ、アプリケーションの拡大などで新規事業の創出を目指す考えだ。

 大井社長は「当社の電材加工事業のマーケティング機能を活用しながら需要先のニーズに合わせた製品開発に取り組み、IoT社会の進展でますます需要拡大が見込まれる高機能製品の安定供給に貢献していく」との方針を示した。

 澤村一郎副社長も「当社が強みを持つ圧延銅箔、半導体ターゲットという製品群に、キャパシタやSAWフィルター、ターゲット材の原料が加わり、今後のIoT社会に不可欠な原料、素材のバリエーションが増える」と話し、「粉体材料としてもJX金属の銅粉、グループ会社である東邦チタニウムのニッケル粉にタンタル粉、ニオブ粉が加わる。例えばタンタル、ニオブは生体適合性の高い金属なので、医療用で3Dプリンター技術と組み合わせた展開なども面白いと思うし、そういった新たな分野への進出も検討していく。当社が強みを持つ高純度化技術や粉体制御技術とのシナジーも追求しつつ、技術的に差別化した製品を供給していきたい」と述べた。

 さらに中長期的にはタンタル、ニオブに加えてレアメタルの金属素材群を銅と並ぶ新たな柱として育てていくという構想もある。大井社長は「現時点で具体的なものは考えていないが、将来的にはこれらレアメタルの上流に当たる資源開発、あるいはこれら素材を使った下流事業、リサイクル事業も含め拡大していく余地があると考えている」と話した。

 シナジー効果の具体的な目標については明らかにしなかったが、大井社長は「今後はシナジー創出に向けて全社を挙げて取り組む。場合によっては人材も電材加工にとどまらず、製錬や資源開発、リサイクルからも積極的に交流し、さまざまな面でシナジーを追求する」と強調した。(相楽 孝一)

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