若しかして

 道端で高校の制服を着た男子2人がスマートフォンで「自撮り」していた。胸には花のリボンを付けて、顔はほころび、はにかんで。そうか、卒業の日の晴れ姿を撮ったんだな。巣立ちの季節は花の季節でもある▲折しも何日か前、沈丁花(じんちょうげ)の切り花をもらい、自宅に飾ったら、花芽だったのが一気に白とピンクの花を咲かせた。冬の3カ月ほどを花芽のまま過ごしたというのに、寒さが緩んだ途端、もう我慢できないというように▲きのう卒業の日を迎えた高校生の皆さんの多くは、受験勉強という名の厳冬を3カ月と言わず過ごしたことだろう。国公立大ならばこれから、2次試験の前期の合格発表があり、後期日程の試験がある▲春の巣立ちを迎えたが、春の吉報は、さて。春が来たような、まだのような、やや肌寒さの残る微妙な時期である。その昔、3年間の思い出に浸りつつ、受験の合否を不安に包まれて待った日を思い出す人もいるだろう▲もしも、もしかしたら。可能性を表す言葉「若(も)し」には「若」の字が当てられる。結果はどうか分からないけれど、もしかして…。期待と不安が入り混じるのを「若」で表す、どこか不思議なこの符号▲なにも受験に限るまい。「もしかしたら」と可能性に懸けて、咲かせる花もあるだろう。若い花芽はいつか開く。(徹)

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