「不況(需要低迷)期に、景気回復に向けていかに『種まき』できるかで好況時にどれだけ需要を取り込めるかが決まり、好況(需要活況)期に不況再来を予知していかに『備え』を万全にするかで厳しい環境を乗り切れるかどうかが決まる」
幾多の景気浮沈を経験しながら、現在の成熟マーケットにおいて90年代のバブル期やリーマンショック前の世界同時好況期よりも業容規模や事業領域を拡充してきた鋼材二次流通・加工業は、時宜に適った「種まき」と「備え」によって企業を成長させようと自助努力してきた。
従来の5倍、6ミリ厚を分速10メートルで
レーザ加工業のインスメタル(本社・千葉県浦安市鉄鋼通り、社長・福井英人氏)が、発振器出力9KWの最新鋭ファイバーレーザ加工機を稼働させた。1985年春にレーザ切断加工分野に進出して30余年。これまで導入してきた数多くのレーザ加工機のなかで9KWは最大出力だ。
CO2にせよファイバーにせよ、高出力に求める期待は、加工板厚領域の拡大か、同じ板厚であれば切断スピードアップ。同社の狙いは後者である。
今回、導入した「FLC3015AJ」(アマダ製)では、加工対象板厚を「中板領域」(4・5ミリ、6ミリ、9ミリ、12ミリ)に絞り、同社が従来、これら板厚を既存のレーザで加工していたスピードよりも4~5倍の速さで精度よく安定して切ることをミッションとした。
たとえば従来は、板厚6ミリであれば分速2メートル強である。これを、分速10メートルの高速で高品質切断するわけだ。
すでに分速9メートルレベルまでは到達したが〝残り1メートルの壁〟が高い。現在、独自ノウハウを駆使して「うちならではの加工条件出しを試行錯誤しているところ」(福井社長)であり、現場には「今年いっぱいかけて確立してほしい」(同)と発破をかける。
「スピードを武器」にコスト競争力強化
「中板領域」を、従来にないスピードで高速切断する加工技術を確立する目的は、一言で言えば「先々の不況再来への備え」である。
足元は景気の好転で仕事量も回復。久方ぶりの需要期に「積年の経営課題だった『工賃』の改善」を、顧客の理解を得ながら推し進めている真っ最中だ。
しかし2020年以降、どこかで景気が後退し、需要がピークアウトするとみられる。今は注文がふんだんにあるが、仕事が減ればどうしても価格(工賃)に対する客先の要求は厳しくなるし、競合他社とも「仕事の獲り合い」になる。注文ほしさに工賃を削らざるを得ないケースもあるだろうし、いくら安くても注文を突っぱねられないかもしれない。
逆に「厳しい単価で受けたとしても採算が確保できるよう自社のコスト競争力を強化」しておけば、競合先との差異化につながる。
コスト競争力は「安定した品質精度の切板を、従来の4~5倍という圧倒的なスピードで加工する」こと。時間あたり加工数量が大幅に引き上がる。何よりも納期対応力が格段に向上するので顧客サービス強化となる。
景気変動に「備える」
同社は軟鋼やステンレス、非鉄金属など素材を選ばず、薄板から厚板まで小ロット・単品モノの、しかも難度の高い品質精度ニーズに対し、独自の技術力を発揮してきた。その分、これまではどちらかというと量産加工やリピート品は、あまり積極的には手掛けてこなかった傾向がある。
「不況で需要が減れば注文を選り好みしていられなくなる」わけで、量産品やリピート品でも「顧客の要望を満たしつつ、それに見合った収益を確保できる」だけの競争力すなわち技術力と現場力を、今この恵まれた需要環境下で着実に身につけ、次の景気変動を見据えて「備え」を万全にするとの戦略が、今回の「中板領域の高速切断」技術の確立だ。
すでに3・2ミリ以下の薄物領域では、既存の4KWファイバーで技術を確立。実績も伸ばしてきた。これを「中板領域」に応用展開し、この分野における「競争優位性」を確実にする。9KWの大出力発振器を採用した理由がここにある。
25ミリや32ミリ…といった厚物志向ではない。それは福井社長の戦略思考とは異なるし、厚物領域についてはすでに既存の6KWレーザで技術を確立済みだ。(太田 一郎)