豊かだった北朝鮮の鉱山都市、経済制裁で困窮に喘ぐ

北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンブクト)茂山(ムサン)は、北朝鮮の中ではかなりリッチな町として知られていた。巨大な鉄鉱山が存在するからだ。

茂山鉱山は北朝鮮最大の鉄鉱山で、推定埋蔵量は約30億トンとも70億トンとも言われている。生産能力は年間650万トン、収益は1億ドル(107億円)に達していた。

中国の天地鉱業貿易有限公司は2003年、1億3000万元(約22億円)を投資し、中国の南坪鎮に作った精錬工場と、同鉱山を結ぶパイプラインを建設し、年間50万トンの鉄鉱石を中国に輸出していた。

鉱山労働者の給料は最高で100万北朝鮮ウォン(約1万4000円)。その多くが配給品の調達費として天引きされるが、それでも高給取りだ。そんな彼らが落とすカネで町は潤っていた。

ところが中国の商務省は、国連安保理の制裁決議2371号の採択を受けて、北朝鮮産の鉄や鉄鉱石などの輸入を禁止する措置を取った。このせいで鉄鉱石の輸出ができなくなってしまった。

そんな中、北朝鮮当局は行政機関などに向けて、次のような指示を出した。

「茂山鉱山を積極的に支援せよ」

これは、一般住民や機関、企業所から物品や現金を徴発し、鉱山に差し出せという意味だ。しかし、現地のデイリーNK内部情報筋によると、住民の間からは「自分が食べるので精一杯なのに何が支援だ」と不満が噴出している。

食うに困って茂山を去る人が続出していたところに、2016年の大洪水で、道内の田畑の3分の1が被害を受けた。そこに、去年の悪天候による凶作が重なった。

「茂山と隣の延社(ヨンサ)には、1日2食しか食べられない家が多い、それほど困窮している」(情報筋)

人々は生き延びるために、豆満江の支流、城川水(ソンチョンス)川沿いの彰烈(チャンリョル)労働者区や芝草里(チチョリ)に積み上げられた鉄鉱石のクズの山で、鉄の粉を集めている。

また、密輸も去年より活発になっている。住民の生活が苦しくなれば、自分たちも損をするので、当局も概ねこれを黙認している。密輸とは言っても、大規模な鉄鉱石の輸出を行っていたのと比べれば雀の涙ほどの利益にしかならない。

お上から「鉱山を支援しろ」と言われても、人々が一向に応じようとしないのには別の理由もある。

地元の人は、鉱山で働く人々のためにと思って物品や現金を差し出しても、横領や横流しで消えてしまうことをよく知っているので、やる気が起きないのだ。

情報筋は、「支援に応じても鉱山労働者の手に届くのは1〜2ヶ月分の配給品だけ。幹部は上から下まで、横流しに加担していることを皆が知っているため、モノやカネを差し出そうとしない」と語っている。

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