困窮者、行き場どこへ 札幌支援住宅火災1カ月 「人ごとではない」

 11人が犠牲となった札幌市の自立支援住宅の火災から1カ月が過ぎた。浮かび上がったのは、住まいの確保が困難な生活困窮者の姿だ。ようやくたどり着いた施設での暮らしは長期化し、老い、やがて終(つい)の住処(すみか)となる。受け皿役を担う民間団体の“善意”に頼る現状には限界が見え、専門家は福祉行政に住宅施策の視点を取り入れるべきと訴える。

 午後6時過ぎ。揚げ物の香ばしい匂いに吸い寄せられるように、夕食の配膳が始まった食堂に年配の男性が続々と集まり始めた。NPO法人「ふれんでぃ」(川崎市川崎区)が運営する無料低額宿泊所「堤根寮」の入所者たちだ。

 この日の献立は、カキフライや大根の煮物などが盛り付けられたプレートに、ご飯とみそ汁。「1日3食、栄養バランスの取れた食事を提供しています」。そう話すのは、同法人理事の皆川智之さん(46)。

 鉄筋5階建てビルを借り上げ、4畳半の個室などに17〜84歳の男性64人が暮らす。平均年齢は66歳。無料低額宿泊所は社会福祉法上、住まいのない人を一時的に受け入れる施設だが、住んで10年以上になる人も少なくない。

 「入所者の高齢化で長期間滞在する人が増え、空いていても一、二つ。常に満床状態が続いている」 利用料は食費や光熱費を含め生活保護費の範囲内で収まる月10万円程度。スタッフが常駐しており、各フロアに消火器や火災報知機が設けられている。防火対策の一つとして石油ストーブは置かず、エアコンを使うようにしている。ただ、スプリンクラーはない。

 寮の運営に公的補助はなく、利用料の一部の入居費だけで賄っている。防火体制を充実させようにも資金を回す余裕はない。「注意喚起しかできず、ソフト面で対応せざるを得ない」。体が不自由な人もいるため、防災訓練ではほかの入所者が協力して避難させるようにしたという。

 札幌市で起きた共同住宅の火災を人ごととは思えない。皆川さんは「生活困窮者や高齢者だけでなく、障害のある人や介護が必要な人もいる。それぞれに合った受け皿を社会がどう用意していくかという議論が必要ではないか」と訴える。

 東京都北区出身の男性(74)は入って17年。住み込みで土木作業員として働いていたが、借金の取り立てから逃れるために路上生活を始めた。数日間まともな食事が取れず、すがる思いでたどり着いた場所がここだった。

 「今の生活に不満はない。同じような火災が起きたら、それは運命だから」。抑揚のない声で、男性は言った。◆民間の“善意”頼み限界 「どんなに貧しくても、どこかに住まなければならない。一時的に受け入れてくれる施設がなければ、いつまでも路上にいるしかない」 横浜市中区の寿地区を拠点に路上生活者などの支援に取り組む寿支援者交流会の高沢幸男事務局長(47)は、生活困窮者のセーフティーネットの役割を果たす施設の重要性を強調する。背景にあるのが、受け皿となり得ていない行政の実態だ。

 アパートなどに転居する際には「人間関係の貧困」が壁となっているとして、「(困窮者には)人間関係が希薄な人が多く、不動産会社から必須とされる緊急連絡先が得られず入居できないケースが起きている」と指摘。「行政の積極的な関与が乏しい中、支援者が自ら連絡先を引き受けているのが実態」と、地域で受け入れることの難しさを訴える。

 居住福祉政策に詳しい立教大の稲葉剛特任准教授(48)も行政の取り組みの不足を指摘する。民間頼みでは限界があるとした上で、困窮者らにも居住の自由があると強調。「当面の宿泊所が終の住処になっている。アパートで暮らせる人はなるべく早く移るように促し、サポートする人が自宅を訪ねるという仕組みに社会福祉全体が変わっていく必要がある」と福祉行政と住宅行政の縦割り解消を呼び掛ける。

 施設から地域への流れを支えているのも民間団体だ。転居時に支援者個人に負担が掛かるケースが見られる中、公益社団法人かながわ住まいまちづくり協会(横浜市中区)は身寄りがない独居高齢者らに民間賃貸住宅を紹介する事業を行う。増加しつつある空き家を活用した取り組みも進めている。

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