【現場を歩く】〈JFE商事コーメック〉電磁鋼板加工で50年の歴史、現場力武器に変圧器メーカーのニーズに対応

 JFEグループの電磁鋼板加工会社、JFE商事コーメック(本社・宮城県登米市)が、創立から50年を迎えた。同社は東北地方では珍しい電磁鋼板を扱う専門集団として二次加工にあたる巻鉄芯まで手掛け、創意工夫あふれた現場力を武器に変圧器メーカーのニーズに応えてきた。その歩みと今に至る生産現場を取材した。(黒澤 広之)

 人口8万人の宮城県登米市。県内屈指の米どころで、岩手県との県境の街にJFE商事コーメックが誕生したのは1968年3月1日のことだ。

 当初の社名は「東北千代田」。埼玉県を本拠としていた機械加工会社の千代田が40%、宮城県企業振興協会が24%、川鉄商事こと今のJFE商事が20%、東北金属工業(現トーキン)が16%出資する合弁会社としてスタートした。

 その後、89年に川商の子会社となり、98年の30周年を機に「ケーシー・コーメック」へ社名を変更。コーメックとは、電磁鋼板の鉄芯である「コア」と、自社製作する加工機械や焼鈍炉といった「メカ」の2枚看板を組み合わせた造語だ。

 03年にJFEスチールが発足すると、グループ内の再編でコーメックはスチールの子会社だったJFE電磁鋼板へと株式が移管された。そのJFE電磁鋼板が昨年、倉敷工場を除いてスチールからJFE商事の傘下へと移され、コーメックはJ商の孫会社となる。かつて川商が設立に参画した同社が、再び還ってきたような形だ。

 50年の中で株主が変遷してきたように、コーメックが手がける製品も時代と共に進化してきた。

 設立当時の主力製品は、リングコアとカットコア。主に高電圧、大電流を低電圧、小電流に変換する変成器に使われる。87年には電柱に載っているトランス用の鉄芯を製造するために自社開発の成形加工機を導入し、カットコアよりさらに性能が高い低鉄損のラップコアも生産を開始した。

 ラップコアはカットコアと形状は似ているが、電磁鋼板を巻いてから切るカットコアに対し、ラップコアは切ってから巻いている。つなぎ目が手作業でもばらせるため顧客にとって使いやすい。

 コーメックは、このラップコアへと製品の軸足を移すことで業容を拡大していく。13年に大口顧客の撤退という厳しい事態に直面した際、翌14年に新型機を導入しラップコアを伸ばすことで活路を見出した。この挑戦がコーメックに飛躍をもたらすことになる。

 売上高は14年度以降、毎年2割ほどの増収が続き、15年度には10億円を突破。年間取扱量も2千トン台に到達。JFEグループとなって以降では最高水準を更新しており、18年3月期では11億5千万円を見込む。

 増収の原動力となったラップコアは、今の売上高の7割ほどを占めている。昨年はラップコアで月間230トンを造る最高記録を更新している。

J1活動で最優秀賞

 コーメックの敷地面積は1万3千平方メートル、工場建屋は4200平方メートル。ラップコア事業の強化に伴い製品倉庫を新設し、その分の駐車場の整備や緑化を進めるため15年12月に敷地を3800平方メートル買い増した。

 現在の従業員は60人弱で、ラップコア事業の拡大前から20人ほど増えている。組織は小松和彦社長をはじめ、藤田茂雄取締役が率いる製造部で51人。工場は2棟あり、カット・リングコアを扱う1係、ラップコアの2係、社内設備や治具等を製作する設備係がある。八谷輝昭取締役が管掌する管理・営業部は6人。社員の平均年齢は48歳で、技能伝承のため10人ほどが雇用延長で働くベテランだ。一方、最若手は18歳で年齢層は幅広い。

 1係では、まず電磁鋼板をスリットし張力をかけながら巻取り成型。形を整えるため鉄板で四方固めし、焼鈍炉へ挿入し熱処理をする。焼鈍はコアの大きさにもよるが、冷めて触れるようになるまでおよそ1日かかるという。

ラップコアで増収、過去最高に/手作業のオンリーワン技術も

 焼鈍後は芯を抜き、後で切断する際にバラバラにならないよう真空下で接着剤を染み込ませる。そしてコアの形状が崩れないよう木型を入れ硬化させる。

 切断は少しずつ丁寧に切っていき、切断面は平坦度に注意しながら研磨。寸法検査ではあらかじめ厚めに巻いておいたコアをりんごの皮をむくように1枚1枚を剥ぎ取って顧客の仕様にフィットさせている。リング・カットコアとも大きなものが造れることが同社の特徴だ。

 2係のラップコアでも、コーメックらしい造りが随所で見られる。まず自社製作の成型加工機、通称「パタパタ」では工員がゲームセンターでレバーを操作するが如く、電磁鋼板を左右交互に折り畳んでいく。柱上変圧器用の小さなコアから、工場やビル等用の変圧器に使用される大きなコアまでカバーしている。

 また大きなラップコアを量産するため14年8月に導入したのが、丸巻機。切断、巻き込み、溶接を連続して行うことができ、これによって、コアの生産量が飛躍的に伸びた。

 2係で特徴的なのは、専業変圧器メーカーでは巻けない大きな径のコアも造れること。工員が手作業だが、地道に組んでいく。それだけに自動化が難しいが、コーメックのオンリーワン技術が発揮されている部分とも言えるだろう。

 また大きいコアだけに、搬送や測定のためクレーンを使う頻度が高くなる。そこで取り組んだのが、クレーンの競合を減らし効率的に使うための改善活動だ。JFE商事電磁鋼板が実施しているJ1活動では、このクレーンの有効活用でコーメックが17年度の最優秀賞に選ばれ、小武久隆社長から表彰された。

 このほか、2015年には「ISO9001」の認証を受け、昨夏に更新。15年版を新たに取得した。コアに番号を付け、どこにどの製品があるかをしっかり把握する品質管理のレベルも着実に向上している。

小松社長「現場の創意工夫、大事に」

 創立50年の節目にあたり、小松社長は「当社の強みは現場の創意工夫。これをいかに継承していくか」と話す。

 受注は近年、急速に増加してきたが、新型機の導入と現場の工夫で「1直体制のままで今の数量をこなしている」。今後も安全を最優先に、品質と生産性の3本柱を鍛えていく考えだが「上から押し付けるのでなく、現場からの提案や意欲を大切にしたい」と、コーメックの良さを今後も引き出していくつもりだ。

 昨春からはJFE商事の系列となり「よりお客様に近い存在となった。(J商の)フットワークの良さと情報力を共有し、より良い会社にしていきたい」と話す小松社長。JFEグループ内でも巻き加工を手がけるコーメックは貴重な存在で、その特長をさらに伸ばしていく。

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