ゲノム研究第一人者の総長が辞任

 県立がんセンター(横浜市旭区)の医師退職問題に絡み、同病院トップの宮野悟総長が辞任したことが6日、分かった。宮野氏はがんゲノム研究の第一人者で、臨床と研究を融合させた新たな治療法確立を目指す同病院にとって大きな損失と言えそうだ。同病院が近く国の「ゲノム医療連携病院」指定を申請することも判明した。退任は2月7日付。

 県立がんセンターでは放射線治療医の相次ぐ退職で重粒子線治療の継続が危ぶまれ、病院幹部と県立病院機構の土屋了介理事長との対立が表面化。宮野氏退任の2日前には、黒岩祐治知事が土屋理事長を解任する意向を固めていた。県は宮野氏の辞任理由について「一身上の都合」としているが、一連の混乱に絡んで病院を離れたとの見方が濃厚だ。総長職は現在空席で、今後の体制は機構が検討するという。

 宮野氏は東京大医科学研究所ヒトゲノム解析センター長を兼務しながら、機構の公募に応じて2015年6月にがんセンター総長に就任した。医師免許を持たない初の総長として病院と臨床研究所を統括、がん免疫療法の推進や遺伝子研究の強化に取り組んだ。

 情報理工学の視点から個別化ゲノム医療の治療・予防の実現を目指し、17年には病院内に「遺伝診療科」を新設。次世代のがん治療に道を開く革新的な医療を推進し、東大医科研と連携してソフト開発を進めるなど高度な治療法の確立にも意欲的だった。

 今年は「ゲノム医療の本格的な幕開け」(大川伸一病院長)とされ、厚生労働省の検討会は2月、国立がん研究センター中央病院など全国11施設を「中核拠点病院」に選定。遺伝子検査や治療法選定のほか、研究や新薬開発を担う。一方、がん組織や血液などの検体採取をはじめ患者の治療は、全国数十カ所に設置予定の「連携病院」が受け持ち、神奈川県立がんセンターも指定申請するという。

 県が6日の県議会厚生常任委員会で、委員の質問に答える形で明らかにした。

 ◆がんゲノム医療 がん患者の遺伝子を大規模に調べ、がんの性質に合わせて効果の見込める薬を選んだり、重い副作用の出そうな薬を避けたりしながら、最適な治療法を探る医療。発症リスクが高い人への検診提供、再発の早期発見のように、予防や診断に遺伝情報を生かす構想もある。政府は、どこに住んでいてもこうした医療が受けられるよう、各地に実施病院を配置する計画。医療情報を集め、新たな薬や診断法の開発を図るためのデータベースを作るなどの体制整備も進めている。

© 株式会社神奈川新聞社