第9回:調達困難のリスクをどう回避するか?(適用事例3) 仕入れ先探しは複数案を柔軟に行使

トナー切れよりもっと焦る事態に備える必要があります(出典:写真AC)

■どんな会社にも起こり得ること

こんな経験はありませんか? ある日、急ぎの重要書類を印刷しようとしたら、トナー切れのメッセージが出て印刷できなくなってしまった。あいにく今日は金曜日だから、今日トナーを注文しても届くのは月曜日以降だ。どうしよう…!

このような場合、経験豊富な人なら何かの裏技で急場をしのぐかもしれません。しかし一般的には、重要書類を印刷・配布できないために提出先の相手に迷惑がかかり、さらには予定されているその後の段取りなどにも影響が出るのは必至。手をこまねいて見ているほかはないと思うでしょう。

トナー切れ一つでこんな状況ですから、何かのアクシデントや災害が発生し、会社にとって重要な資源―例えば原材料や部品、商品、製品など―が欠品したり調達できなくなったりしては一大事です。そこでBCP(事業継続計画)では、こうした緊急事態に備え、あらかじめ「代替調達先」を確保することを奨励しているわけです。

ところがここに一つのハードルが。代替調達先としてどのメーカーと手を結ぶのがベストなのかという問題が生じます。品質、仕様、価格だけでなく、災害に強い企業文化を持っているかといった点も考慮する必要があるでしょう。複数の候補先の中から最適な1社を選ぶことになるわけですが、これが一筋縄ではいかないのです。かと言って「まあ、そのうち時間のある時に…」などと先送りしていたら、永久に代替調達の候補先は見つかりません。

■防災意識の高さも選定要件に含めよう

今回のPDCA事例では、まさにこの問題に焦点を当てます。会社にとって最も重要な調達品目について、どうしたら自社の条件にマッチした候補先を選定できるか、そして理想ではなく現実的な発注先として契約を結ぶことができるかを解決するものです。次の例をご覧ください。

【事例】製品Xの仕入れ先は河川氾濫危険域内にあるが、同社の防災意識はあまり高くなく、BCPも策定していない。豪雨災害や地震が多発している今日、もし仕入先の被災によって製品Xの調達が困難になれば、当社の生産がストップしてしまうリスクがある。よって製品Xの代替仕入れ先を探す必要がある。

まず「Planの」ステップについて。新規に調達先を開拓するわけですから、ここでは「なぜ分析」(5つのWhy分析)は使いません。しかし目標とするところと、その目標を達成するための要件は上記の事例の文面から明らかです。

目標は防災上より安全な代替仕入れ先を確保すること。その選定活動に当たってはいつまでに達成するのか期限を設ける必要があるでしょう。候補先は「製品X」と同等の製品を扱っている(製造している)会社であることが必須ですから、仕様や価格面で自社の条件と折り合わなければなりません。これらに災害への対応能力を加味すると、次のようになります。

・目標:製品Xの代替仕入先を3か月以内に探し、契約を交わすこと。
・選定条件1:現行の仕入れ先と同等のスペックと価格を満たせること。
・選定条件2:BCPを持っており、災害への対応ができていること。

■「Plan」から「Do」へ

目標が決まり、条件が出そろったところで、次はこれらを達成するための方法を検討します。仕入れ先の開拓という意味では日常のビジネスの延長にあるわけですから、これまでの経験を生かした考え方が思い浮かぶことでしょう。例えば(1)担当者自らインターネットや取引先のコネを通じて代替仕入れ先を探す(2)災害に強い工業団地を誘致している自治体を回って該当する企業を紹介してもらう(3)ビジネスマッチングを得意とする専門家に代替仕入れ先を探してもらう、といったことです。

PDCAでは、(1)~(3)の3案の中から無理やり1つだけ絞り込んで残りを切り捨てる必要はありません。2つは残しておいて1案目がダメなら2案目…と順に実行すればよいのです(これがいわゆる「Do」→「Check」の反復)。と言っても、どれから先に実行するのか暫定的に決める必要がありますから、次の点も考慮して最初に実行する案を決めることにします。

・代替仕入れ先を探すためのコスト・労力・時間はあまりかけたくない
・目標に掲げた要件をすべて満たせるオプションはどれか?

これらの追加要件も踏まえて検討した結果、最終的に(3)案の「ビジネスマッチングを得意とする専門家に代替仕入れ先を探してもらう」ことを選択したものとします。少し長い道のりだったように感じたかもしれませんが、ここまでが「Plan」の段取りとなります。

さて次が「Do」のステップ。ビジネスマッチングを得意とする専門家を呼んで当社の代替仕入れ先に対する希望条件を説明し、いろいろと探してもらった結果、2カ月ぐらい経って、なんとか契約を前提とした交渉に入るところまでこぎつけました。

■「Check」→「Act」は総合的に判定すべし

ビジネスマッチングの専門家が提示した代替仕入れ先は、果たして当初の「Plan」の目的や目標、条件に適っているのでしょうか。これを評価・検証するのが「Check」のステップです。評価・検証のポイントは、次の3点にまとめることができるでしょう。

一つは「代替仕入れ先は当社の求める条件を満たしているか?」ということ。これは文字通り「Plan」で設定した目的・目標・達成条件に適合しているかを確かめるチェックポイントです。

次は「代替仕入れ先が見つかるまでに要した時間とコストは許容範囲内だったか?」。目標や条件をコインの表とするなら、その裏に当たるのが目標達成のために要した時間と費用です。いくら目標が達成できても、そのために多くの時間とコストを費やしたのでは意味がありません。

三つ目は「代替仕入れ先が決まる過程で予期しなかった問題やデメリットは発生しなかったか?」です。これも前掲の二番目の同じようにコインの裏に相当する重要なポイントです。

これらを総合的に勘案した上で、最後にPDCAの4つ目のステップ、「Act」の判定に進みましょう。評価・検証の結果、おおむねすべての条件を満たしているなら、本契約に向けて交渉を進めることができます。一方、もし満足のいく結果が得られなければ、他のオプション((1)案や(2)案の方法)に立ち戻って再度「Do」→「Check」をやり直すか、抜本的に「Plan」から練り直して再度PDCAの各ステップを踏むことになります。

(了)

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