【特集】人を癒やす漫画「家族の物語」(1)

団士郎さんが描く 未来への“種まき”

©一般社団法人共同通信社

団士郎さんの作品。

 「家族ってね、どんどん人が増えたり減ったりして、形は変わっていきますよ。最後には1人になるもの」。関西に拠点を置く漫画家でセラピストの団士郎さん(70)が語りかける。虐待が相次ぎ、離婚が増加するなど〈家族の危機〉が叫ばれる時代。正しい立派な家族とそうでない家族―。そんな単純な型枠に落とし込めるものではない。常に一筋縄ではいかない場所のことであり、関係性のことだ。そんな思いを胸に団さんが描き続けてきた家族にまつわるストーリーを集めた小冊子が今、東日本大震災の被災地や、刑務所を出た人々を支える現場で読まれている。そこに示されているのは、肉親を失って悲しみの淵に沈み、居場所がなく途方に暮れる人々への共感であり、エールだ。(共同通信=大阪社会部・真下周)

 ▽押しつけないメッセージ

 2011年3月11日の東日本大震災から7年。立命館大大学院教授を3月に退職する団さんは、女性問題や戦争トラウマを研究する村本邦子教授らと共に11年秋から東北4県を巡り、公民館などで団さんの漫画をパネル展示して、被災者や支援者との語らいの場を提供する「東日本・家族応援プロジェクト」漫画展を毎年、開いてきた。

 団さんが不定期に発行してきた挿絵漫画のストーリー集「木陰の物語」の中から、毎年新たに5、6話を選んで収録した同名の小冊子を1万部ずつ発行。来場者やプロジェクトを応援してくれる人を通じて、多くの人に無料で届けてきた。

 漫画で取り上げるストーリーや登場人物は必ずしも震災とかかわりがあるとは限らない。半世紀の間、児童相談所などで心理職として対人援助に携わってきた経験を題材に選んでいる。だが団さんは「他人の物語が過酷な体験で固まってしまった人の心を溶かし、自身の中の物語を呼び覚ますことがある」と静かに語る。

 「くやし涙」ではこんな話が描かれている。

 離婚を決意し、新天地で生活を始めた母子。折しも、学校給食の食中毒で死亡事故が起きて、給食が全面休止になった。(仕事で)弁当をつくる余裕がなく、毎日パン代を持たせていた。

 ある日、娘の担任から呼び出された。「お仕事を辞めて、毎日お弁当を作っているお母さんもあります。パンばかり。かわいそうだと思いませんか」。しみじみした口調で言われた。

 (離婚は)覚悟の決断だったが、現実はつらかった。毎日のように、娘をかわいそうに思うことが起きていた。そんな時期に言われた。事実だったから黙って聞くしかなかった。「世の中の人は何も知らないで、こんなことを言うのだと思った。理解されない心の傷って、こういうことかと」

 あれから20年が過ぎ、娘も成長し独り立ちしていった。でも、あの日の帰り道のくやし涙を私は絶対に忘れない―。

 団さんの漫画では起承転結やオチは強調されない。メッセージを押しつけず、誰かの心に少しでも何かが残れば、と願う。偶然、漫画展に立ち寄った人の目に入った一篇が、その人の心にささやかな灯をともし、置かれた状況の変化につながることもあると信じる。

 「説教されても人は聞きません。他人の指図は受けたくないから」。長年の経験から確信めいた思いを抱く。「こうすべきだ」。説教する人は自説の正しさに執着するが、その効果には興味を持たない。聞き手からすれば、人に言われるがままは受け入れがたく、自分の気づきには素直になりやすい。相談者の主体的な気づきを側面支援するのがプロの業なのだ。

 ▽私の居場所はどこですか?

 団さんは被災地支援とは別に、刑務所などの矯正施設を出所し、帰る先がなかったり、身元を引き受ける人がいなかったりする高齢者や障害者の地域生活を支える取り組みにも協力している。一般社団法人「よりそいネットおおさか」(大阪市中央区)の提案に応じ、啓発用に「木陰の物語」と同じスタイルで小冊子「この街のどこかに」をつくった。これもまた種をまくように人づてに共感を広げていく方法だ。

 被災者と出所者。一方は厄災の被害者で、もう一方は犯罪の加害者という関係性。双方をつなぎ合わせる接点はないように見える。だが団さんの目にはともに家族の物語で傷ついた人々と映る。

 団さんがずっと着目してきた家族の存在。家族をシステムとして、その関係性から相談者が抱える問題の解決の糸口を探ってきた。なぜそこまで家族にこだわるのか。「家族の物語にはその人の暮らしの全てが含まれる」からだという。

 大切な人の喪失感に打ちひしがれ、この先の物語を描けなくなった人。機能不全の家庭で育ち、家族の幻影に苦しみ、生きづらさが犯罪として表面化してしまった人。なぜ自分がこんな目に。私の居場所はどこですか―。「どれだけ孤立したように見える人も、1人で生まれてきたわけではない。誰かに生んでもらい、育ててもらった時間がある」。そこには必ず家族があった。

震災から7年…
漫画家でセラピストの団士郎さん