[寄稿・秋野卓生弁護士]2020年ショックに向けた法的対応策 

新建ハウジングでは、2018年を「2020年ショック」への対応を進める重要な年と位置付けています。そこで、住宅産業に関係のある法律をテーマに『新建ハウジング プラスワン』で連載をしていただいている匠総合法律事務所・代表の秋野卓生弁護士に、2020年ショックに向けた法的対応策という題でご寄稿いただきました。

新建ハウジングが発行した『住宅業界大予測2018』には、2020年ショックとして、下記10項目が取り上げられました。

①  東京五輪需要・消費増税駆け込み需要の反動減
②  2019年をピークに総世帯数が減少へ、30代ファミリー世帯は2010年比2割超減
③  新設住宅着工は2015年比約2割減、79万戸へ?
④  空き家率は20%超へ。空き家活用が国家的課題に
⑤  国が既存住宅+リフォーム市場倍増=20兆円目標
⑥  団塊世代が後期高齢者へ、高齢者施設不足が加速
⑦  省エネ基準適合義務化、新築の過半数ZEH化目標
⑧  訪日外国人旅行客は2020年に倍増=4000万人目標
⑨  大工の数は2010年の40万人から31万人に減少?
⑩  「働き方改革」法制度化、罰則規定スタートへ

この2020年ショックに対して、法的にどのような対応を準備していくか、について検討をしてみました。

倒産リスクの回避
 ①の反動減と⑨ の大工数の減少は、工務店の倒産リスクに直結します。倒産リスクを回避するために、倒産予兆段階での法的アドバイス強化に力を入れていきます。
 まず、クレーム・トラブルによる請負代金回収困難案件については、弁護士の力も活用して早期に債権回収を図りましょう。
 資金繰りの回転が狂い、業者への支払い遅延等が発生すると歯車が狂ってきます。
 そのようなケースでは、顧客から入金された前受金を資金繰りにあてて困窮をしのごうとせず、M&Aや事業譲渡も視野に、顧客を守ることを第一に対応方針を検討していきましょう。

働き方改革関連法案対応
・トップの意識改革が大事
 収入から経費を差し引いた利益をいかに効率よく残すか?という視点を常に持ち続けておきたいところです。
 「利益を残す」というゴールに向けて、「売り上げを拡大していく」という目標を掲げるトップが多いのが住宅業界だと思うのですが、売り上げを落としてでも、無駄を省く経営が極めて重要であると考えます。

・残業代未払いやサービス残業は、「ブラック企業」の典型
 生産性向上とは、要するに、スピードで仕事を処理することとイコールであり、スピード感あふれる仕事をする有能な人材とダラダラ仕事をする人材とで後者に残業代を法律通りに支給すると不公平が生まれてしまう、という発想からサービス残業や残業代未払い問題が生じてきてしまいます。
 しかし、残業代未払いやサービス残業は、「ブラック企業」の典型ですから、良き人材の採用にダメージを与え、良き人材の離職率を高めてしまいます。

・視点を変えた戦略を採用し、他社との差別化を果たす
 土地を仕入れて、建売住宅を建築する不動産業者は、大手建売業者の積極果敢な土地の仕入れ力に負け、また、住宅の価格でも負けてしまうという事例が当事務所の法律顧問先企業でも出てきています。
 こうしたケースで私は、視点を変えることも重要であるとアドバイスしています。無理に勝とうとすると下請け業者に無理な単価でお願いするなど建設業法違反が出てきたり、土地も事故物件などリスクある物件で法的リスクが多く出てきてしまうからです。

新たな需要の創造
・高齢者向け「正しいリフォームの提案」ビジネス
 間違いなく、今後も、シニア人口は増えていくので、シニア向けビジネスに力を入れていきたいところです。まず、OB顧客だけでなく、地域の高齢者全体に対し、正しいリフォームサービスを提供してくれる会社は、社会にとって必要な住宅会社の姿であろうと思います。
 というのも、悪質な訪問販売リフォーム業者が、残念ながらたくさんの高齢者被害を与えています。この高齢者被害を未然に防ぐ工務店の役割は重要であると思います。

・住まいの清掃サービス
 住まいのお手入れは清掃からはじまると思います。この清掃ニーズは、シニア世帯のみならず、共働きのファミリー世帯でも、ことのほか大きいと思います。また、有力工務店社長から「リフォーム後のクリーニングの外注費も馬鹿にならない」という話も聞いたことがあります。思い切って内製化してしまう戦略もあり得ると思います。

・木造非住宅分野へのトライアル
 CLT工法など、やったことがない分野の工事に着手するのに二の足を踏んでしまう工務店も多いのではないかと思います。「やったことがないからやらない」のではなく、次の時代の仕事をつくる!という先行投資的な発想で、木造非住宅分野に着手することも今のうちから取り組んでいいただきたいと思います。
 特に高齢者施設の建築は、今後も継続して工事現場が登場するでしょう。公共建築物木材利用促進法の実践も進む中、木造非住宅分野は、「まだ誰も取り組んでいない分野」として注目していただきたいと思います。

定年により退職した人材の活躍の場をつくる
 医療の発達により、平均寿命も延びて、まだまだ働くことのできる定年組の人材がたくさんいます。
 定年後再雇用制度を導入している工務店も多いと思いますが、会社の新陳代謝を促進することは組織にとって重要であるので、定年制度は決して悪くない(若者に管理職のチャンスの場を積極的につくることも経営者の仕事)と思います。
 この65歳以上の人材に活躍してもらいたいのが、災害復興の現場における社会貢献事業です。
 例えば、地震により、住宅の手直しを余儀なくされているが、順番待ちをしているOB顧客もたくさんいます。工務店も、そういったOB顧客に手を差し伸べていきたいのですが、会社の次の経営を考えると新築市場でも頑張らざるを得ない。工務店も人材不足に悩んでいますから、人的パワーにも限界があり、結局、OB顧客はリフォームをしてもらえず、同じ地域で新しい顧客を追いかけている工務店に失望してしまう。こういった想定外の需要増にマンパワー不足により、どうしようもない事態に悩む工務店もおり、やがてOB顧客の失望というブランド価値の低下に結びついてしまうと、上記シニアビジネスなど展開できる訳がありません。
 この悩みに応えることができるのが、全国に沢山存在する工務店を定年退職した営業マン・技術者であろうと思います。
 社会貢献として、こういったマンパワーが集結する仕組みができ、災害復興の現場の工務店の支援ができる体制が整えば、工務店業界全体の救済につながるのではないかと思います。
 「困っている人や企業の役に立つ」ための新しい取り組みを実践することはイノベーションの原点であり(電気洗濯機の普及は、主婦の苦労に企業が真剣に向き合って生まれたもの)、地域密着型工務店の弱点である災害時に生じるマンパワー不足を補うビジネスは必ずや成功するのではないか?と思います。

2020年ショックには、今から備える
 予測できる近未来への対応は、今から備える体制を工務店経営者には着手していただきたいと思います。
 私も法律事務所経営者として来たるべきAI時代とどのようにコラボしていくか、真剣に考えているところであり、皆さんと一緒に近未来の生産性向上の切り口を語り合えたらな、と思っています。

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