【MLB】牧田和久が語る変幻自在のストレート 「指先の感覚で回転を変える」

パドレス・牧田和久【写真:田口有史】

大きなこだわりを持つストレート「大事なボールであることは間違いない」

 今オフ、パドレスへ入団した前西武の牧田和久の評価が日に日に高まっている。サブマリン投法はこれまでの投手のイメージを変えたと言えるかもしれない。

 その球種、投球フォームへのこだわりについて、以前、牧田が明かしたことがある。今回は2回に分けてその話を紹介したい。今回は前篇。

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「エンゼルス大谷翔平以上に注目されている部分もあるかもしれない。これまでMLBに存在しなかったパワー系の下手投げ。スターターもブルペンも両方こなせる。確実に戦力になると思いますよ」とは日本駐在のMLB環太平洋担当スカウト。

 下手投げや横手投げというと変則、技巧派投手のイメージが強かった。ストレートはある意味、見せ球にしておき、横に流れるスライダーやスローカーブ、そして縦のシンカーなどで勝負する投手が多かった。レッドソックスに挑戦した下手投げの代表格、(前ロッテ)渡辺俊介などもそう。しかし牧田の場合、あくまで中心はストレート。勝負球もタイミングを外すのもストレートを柱にしている。

 牧田は同じストレートでも強弱を付けて打者のタイミングをズラしている。ストレート投手という意識はそこまでない、と言うが、やはり大きなこだわりがある。自らのストレートについてこう語ってくれた。

「社会人に編み出した」ストレートの強弱、重要な「指先の感覚」

「ストレートだけで勝負できるとは考えてはいないですが、大事なボールであることは間違いない。投げる際、握りはあまり変えないで強弱を付けている。社会人(=日本通運)時代に編み出したのですが、同じストレートでも回転力を変えて強弱を付ける。1つはリリースの瞬間に強く回転力を付ける。1つはそのまま投げる。1つは簡単に言うと棒球みたいなボールを投げる。1つは抜いたように投げる。ストライクを取る球と打者のタイミングを外す球。そういう球を投げ分けることによって、打者の中でも少しズレが出て来る。それが狙いですね」

「指先の感覚で回転を変える感じ。投げる際に直感で変える時もあるしボールカウントで変える時もある。また、データの中で『この打者はこのボールカウントで狙いを定めて振って来る……』という時には、わざと抜いたような、少しハーフスピード気味の棒球のようなストレートを投げるたりしてカウントを稼ぐ。もちろんそれを狙われてしまったらおしまいですが、ある程度、確信が持てる時ですね」

「でも緩いストレートを投げる時に楽をするようなことはない。緩いストレートを投げる時にも、腕はしっかりと強く振ることが重要。その時は腕を振りながらも緩急を付ける。例えば、バントをやって来る時などに微妙に力の配分を変えたりする。リリースの前にバントの構えをしたのが分かる時など、シンカー気味に指先に力を入れたりする。そうすると緩急をつけたり、もしくは球の軌道も変化させることができる」

 ストレートの投げ分けのコツは指先の感覚だと言う。人差し指と中指の感覚を大事にすることで、より「良いストレート」を投げることができる。

「フライボール革命」にはフライアウトで対抗する

「理想としては人差し指と中指の両方が最後までかかるようにしたい。でも最後は中指にはかかっていない感じで、人差し指もかかってくればキレが出る。やっぱり中指が長いので最後の押し込みが中指になってしまうから、人差し指を大事にする。感覚の部分ですけどね」

「どちらの指も自然に最後までくっ付いているような感じ。あとは意識はしていないけど、下手で投げている分、中指で支えて最後まで投げている部分もある。そのおかげで僕のボールはジャイロ回転っぽくなる。アウトコース低めを少し上を狙って勢いが出るのもそう。だから結果的には中指が最後までかかるのも良い方向へ行っているかもしれない」

 近年、MLBでは「フライ打球を打つことが結果につながる」と考えるトレンドがある。いわゆる「フライボール革命」だ。これはプレーの数値化によって出た結論からである。そんな中で牧田は西武時代から意識的にフライアウトで打ち取ることを考えて来た。そういった部分でもMLB強打者との対決は非常に楽しみである。

「打ち損じてフライを打たせたりすることを考えている。フライならフェンスを越えなければ、ほとんどアウトを稼げる。そのために仮に捕手がアウトローとかに構えても、自分で意識的に少し高めにストレートを投げたりもする。そうすることで打者が球の下をコンタクトしてフライに打ち取ることができる」

「でも面白いことに、捕手が最初からハイボールを要求した時は、なかなか走ったストレートが行かなかったりするんですよね(笑)。棒球みたいな感じで高めに行ってしまって危なくなる。でも捕手が低めに要求した時に少し強いボールを投げようと思うと、高めにピュッと伸びるような感じになる。そういうストレートはポンっと打ち上げてくれる。それを自分自身の判断で意識的にやることがある」

 NPB時代の17年を例に出すと、58試合62.2回に登板。ゴロアウト率が9.9に対してフライアウト率が6.8に迫る。いかにフライアウト率が高いかも数字上にも現れている。

 牧田のストレートは、はたしてMLBの強打者たちの目にはどのように映るのだろうか? フライアウトを稼ぐ秘訣の1つはストレートへのこだわり。そしてもう1つは投球フォームへの大きなこだわりだ。

(「パ・リーグ インサイト」吉田貴)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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