【震災7年】片瀬こま贈り被災地支援 藤沢の保存会

 湘南地域に伝わる玩具「片瀬こま」を通じた被災地支援が続いている。中心となっているのは、藤沢市民有志でつくる「片瀬こま保存会」。これまで東日本大震災や熊本地震の被災地にこまを贈ってきたが、今月から岩手県大船渡市から原料であるツバキを譲り受け、新たなこま作りを始めた。出来上がったものは、被災地の仮設住宅などに贈る予定だ。

 片瀬こまは、大正時代の終わり頃、漁師町だった藤沢市片瀬や鎌倉市腰越などで作られ始め、藤沢市内に広まった。漁で伊豆大島(東京都大島町)に行くことが多く、島でツバキの木をもらったことから原料になったとされる。

 保存会が被災地に初めてこまを贈ったのは、東日本大震災直後の2011年3月。藤沢市在住の医師が被災者らの往診で宮城県南三陸町を訪れた際、避難所の子どもたちに配った。

 保存会の杉下由輝さん(46)は「医師から『避難所に子どもたちの声が響いた』と聞き、とてもうれしかった」と振り返る。片瀬こまは硬く重量感があり、直径は5センチから10センチほどのものもある。相手のこまと戦う「けんかごま」が人気で、避難所近くの路上では子どもたちが対戦を楽しんでいたという。16年4月に起きた熊本地震でも医療支援に向かった同じ医師を通じて、避難所でこまをプレゼントした。

 今年2月には、藤沢市が大船渡市と災害時の支援を強化する協定を結ぶと「こまの原料であるツバキを提供したい」との話が舞い込んだ。大船渡市では、津波で被災した地域の高台移転のため山林を切り崩した際、多くのツバキの木が廃材として出たという。

 「これまではこまを寄付するだけにとどまっていたけれど、こまを通して人や地域の交流ができれば」と杉下さん。今月、大船渡市の市民からツバキの木を譲り受けた。

 藤沢市内で唯一、片瀬こまを作る熊野安正さん(82)は「ここまで大事に片瀬こまの伝統をつないできた。藤沢だけではなく、新しい場所でもこまを楽しんでもらえたらうれしい」と話す。原木からこまが出来上がるまでは約半年かかる。保存会はこま完成後、被災地へ寄贈するほか現地でのこま大会などの開催も考えているという。

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