「第1回JUTMシンポジウム」開催 総勢38人の登壇者が空域管理や電波管理などで見解を披露   ドローンの普及促進と、それに伴う課題解決に必要な社会基盤を整備するため、空域や電波の管理システム構築を目指す日本無人機運航管理コンソ-シアム(JUTM)が第1回シンポジウムを開催した。産業界、研究機関、中央省庁、地方行政など各界の第一人者が計38人が、講演やパネルディスカッションに登壇する異例の大規模集会となった。

講演8本、パネルディスカッション5本の集中討議

ほぼ満席となった工学部の大講堂では、白熱したパネルディスカッションが繰り広げられた=2月20日、東京都文京区の東京大学

 シンポジウムは「人とドローンが共生する未来社会の実現に向けて」の副題がつけられ、2月20日に東京大学工学部の大講堂で開かれた。
 シンポジウムは午前中に基調講演5本、特別講演3本、午後にパネルディスカッション5本が組み込まれ、〝ドローン漬け〟の集中討議の様相となった。
 各界の第一人者がこれだけの規模で登壇し、発言する場面を見ることは珍しく、平日開催にも関わらず開場はほぼ満席となった。来場者は次から次へと出てくる第一人者が繰り出す言葉に聞き耳をたて、メモをとっていた。
 基調講演では、総務省総合通信局電波部移動通信課の石黒丈博課長補佐が「ドローンで使用する電波法令に関する最新状況」の演題で登壇。石黒氏は、最近の状況をふまえ、「高画質の映像伝送、目視外の運航、飛行位置の把握などにも電波利用のニーズがあるが、電波は専用ではない。限られた電波をいかに有効に使うかについて検討を進めている。将来的にはドローン同士で情報を取り合うようにして、衝突防止につながればいい」などと話した。
 国土交通省航空局安全部安全企画課の三輪田学主査は、改正航空法の概要と最近の取り組みについて安全規制の視点から概説。「平成28年度は毎月1000件程度の申請だったが、平成29年度は月間1800件程度に増えている」と現状を報告し、需要の高まっている目視外飛行の認定要件や、第三者上空での飛行要件の論点を整理している状況などを説明した。

「世界一チャレンジがしやすい」を目指す「福島ロボットテストフィールド」

 国交省総合政策局物流政策課企画室の大庭靖貴課長補佐は、「ドローン物流を実現するための課題と政策」をテーマに、ドローンの物流利用について説明した。
 ドローンに期待が寄せられる背景として、物流業界では、トラックドライバーの減少など労働力不足や、貨物輸送の小口化、多頻度化の進捗で、業界環境が悪化していると指摘。その中で大庭氏は、「たとえば輸送一件あたりの貨物の重さは、2010年は1990年から4割軽くなった一方で、1人の利用件数は1990年に比べ、2015年は1.7倍に増えている。トラック1台で軽い荷物を運ぶのはコスト高で、その回数が増えている。ドローンが活用できれば生産性が向上すると考えられる」と言及。操縦者が肉眼で確認できないところでも誤差数十センチ以内で目的地にたどりつくための技術開発を進めていることを説明した。
 ロボットによる産業振興に力を入れている福島県から、商工労働部産業創出課ロボット産業推進室の北島明文室長が参加し、平成29年5月に福島復興再生特別措置法の改正法成立を受けて、法律で事業推進が規定されることになった、福島・浜通り地域などに新たな産業基盤構築を目指す「福島イノベーション・コースト構想」の取り組みを説明した。
 特に福島県南相馬市で整備が始まった「福島ロボットテストフィールド」については、「世界一ロボットの実証実験、チャレンジがしやすいまちを目指している」とアピール。衝突回避、物件投下、不時着などの特殊な飛行試験が可能なドローン用滑走路が整備されることや、福島県浪江町との間に13キロの飛行コースを設定し、広域飛行が試せることを列挙した。飛行コースには、高さ30メートルの通信塔を整備することで途切れない通信環境を確保したり、上空風向風速観測装置を設置し、地域をメッシュに切って風を観測できるようにしたりできるようにする、などと説明した。
 このほか経済産業省の荒幡雅司氏(製造産業局産業機械課ロボット政策室国際調整係長)が、経産省としてドローンを「飛行ロボット」と位置づけて研究開発を支援しているなど、経産省の取り組みについて紹介した。

「安全性を高めるものは、責任追及ではない」JUTM鈴木代表が講演

 特別講演では、最初にJUTMの鈴木真二代表(東京大学教授、日本UAS産業振興協議会理事長)が、「人とドローンの共生とその実現に向けた課題」の演題で登壇。新しい技術を導入するさいに競争領域と強調領域があすことを意識することの重要性を説明した。とりわけ社会実装するための取り組みは競争しあうものではないと指摘「社会インフラが整備される必要がある」と来場者に呼びかけた。
 鈴木代表は講演の中で、過去の航空機事故にも言及。1996年に米トランスワールド航空の旅客機が空中爆発した事故では、テロ説がうわさされたが、配線でショートした火花が燃料タンクに残っていたガスに引火して爆発したと結論づけられ、テロ説は否定された。これはのちに、三菱重工業などが開発した小型航空機、MRJには、不燃ガスを充填させるなど防爆性能を高めた燃料タンクを搭載することになったなど、事後の改良につながっていると説明した。
 ドローンも普及が進むにつれ事故が増えており、どう対応するかが大切になっているが鈴木代表は「安全性を高めるものは、責任追及ではない」と、再発防止の議論の重要性を強調した。
 鈴木代表は講演の機会にはしばしば安全対策に言及していて、昨年11月28日にJUIDAが開催した「JUIDA認定スクールフェスタ」のさいにも、事故情報の収集と、それを改善に役立てる仕組みの重要性を指摘し、「安全対策の目的は責任追及ではない。再発防止だ」と発言していた。
 特別講演ではこのほか、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構航空技術部門航空技術実証研究開発ユニットの原田賢哉主幹が「運航管理システムの研究開発動向」について紹介。「高密度目視外飛行の実現には、空域、電波利用などにおける共通ルール策定、システム間の情報共有コンフリクト解消が重要」などと述べた。
 シンポジウムで進行役を務めた東大総括プロジェクト機構航空イノベーション総括寄附講座の中村裕子中特任准教授も特別講演に登場し、「福島社会実証概要と成果」をテーマに、JUTMが2017年3月、同年10月に実施した過去2回の実験の成果や、取り組みの意義、目標などを説明した。
 中村特任准教授は「UTMは低高度の空を安全に活用する社会システムで、今まで利用されてこなかったことを利用できるようになることになる。言い換えれば空の再設計」と指摘した。実証ではドローン19機、44団体の参加を受け、2.5日間にわたり、120のフライトを繰り返した経緯を紹介し、「警報の精度、判断のタイミングなど、実証をしたからこその学びを得られた」と成果を強調した。新しいシステムに入れ替わるとき、技術と社会は相互に影響を及ぼしあうことを、マンチェスター大学のフランク・W・ジールズ教授の論文での指摘を引き合いに出しながら、「人とドローンの共生する社会の実現に向けてこれからも取り組む」と抱負を述べた。

講演する鈴木真二JUTM代表。

「人員が半減しても、現在の2万4000の郵便局を維持するのが使命」(日本郵政・上田氏)

 パネルディスカッションでは、ドローンに取り組む企業や団体の経営者、担当者が続々と登壇し、会場をさらに盛り上げた。
 最初のテーマは、「広がるドローンのアプリケーション~人とドローンの共生する未来社会と実現のための課題~」。国立研究開発法人産業技術総合研究所フィールドロボティクス研究グループの加藤晋研究グループ長をモデレーターに7人のパネリストが登壇した。
 ステージに登壇したパエリストは、損害保険ジャパン日本興亜株式会社の高橋良仁氏(保険金サービス企画部損害調査企画室技術部長)、株式会社リアルグローブの大畑貴弘代表、株式会社スカイシーカーの平井優次企画部部長、株式会社日立システムズの曽谷英司ロボット事業推進部部長、高野建設株式会社の高野裕之社長、日本海洋株式会社の西野雅博運営企画部長、セコム株式会社の尾坐幸一氏(技術開発本部開発センターサービスロボット開発グループ統括担当兼開発統括担当ゼネラルマネージャー)。
 ドローンをめぐる課題について、日本海洋の西野氏が「バッテリーが足りないときのオペレーションと、足りなくならないための工夫」を、損保ジャパンの高橋氏が「監視者を含め1台のドローンを飛ばすのに3人がかり」という〝人手〟問題をそれぞれ指摘した。スカイシーカーの平井氏は「災害時の電波。占有できる電波があれば有効だと思う」と見解を述べた。
 電波の話題がほかのパネリストからも示されたため、急遽、客席に控えていた総務省の石黒氏に見解を求める一幕があり、石黒氏は「使いやすい電波環境を求められることは多いが、肝心の使いやすい電波とは何か。たとえば高精細の画像や映像伝送するための高い周波数は、障害物があると途切れやすい。ではどんな電波がいいのか。こうしたことをひとつひとつ検討し、活性化させていきたい」と答えた。
続けて行われた、「目視外飛行の実現に向けて~機体の安全性、信頼性、最新技術~」とタイトルがつけられたセッションでは、ヤマハ発動機株式会社の佐藤彰氏(同社ビークル&ソリューション事業本部UMS事業推進部企画戦略担当主管)がモデレーターを担当。株式会社エンルートラボの銭谷彰執行役員、株式会社自律制御システム研究所(ACSL)の鷲谷聡之取締役最高事業推進責任者(CMO)、DJI JAPAN株式会社の福田達男ポリシーディレクターがステージに並んだ。
ACSLの鷲谷氏が「ドローンの全体は機械であり、ハード、ソフトの両面で高める。それとは別系統でパラシュートの開発も進めている」と発言。同社の機体のパラシュートはある実験で障害を検知したさいに起動し、機能することを証明した経緯がある。DJIの福田氏は「技術的にできることはすべてやる立場だ。安全性の評価は基本的には、確率など数字の話にならないと進まない」と指摘した。エンルートラボの銭谷氏は「自己診断機能を持っていて、不具合がある場合は運用しない」と述べた。
「ドローン物流は実現するか」では、モデレーター席にANAホールディングスの津田佳明氏(デジタル・デザイン・ラボ・チーフ・ディレクター)が座った。
日本郵便株式会社の上田貴之氏(本社 郵便・物流賞品サービス企画部課長)、一般社団法人ヤマトグループ総合研究所の大野一彦マネージャー、樂天株式会社の向井秀明氏(新サービス開発カンパニー事業企画部ジェネラルマネージャー)が、それぞれの立場を披露した。
物流が必要となる背景について日本郵便の上田氏が「人手不足。2060年には労働力人口が半減する。全国2万4千局を半分の人間で維持することが使命だ」と述べた。
モデレーターの津田氏が物流で採算はとれるのか、と質問したのに対して樂天の向井氏は「当初はコストに見合わない。監視をつけないと飛ばないなど、結局人件費もかかる。しかし技術開発などの進み具合に応じて、コストに見合うサービスになるはず」と見込み、ヤマト総研の大野氏は「ラストワンマイルと呼ばれる個別の自宅に届けるとなると不特定多数に運ぶことになり、コストを1社で負担するのは大変だ。拠点間配送にするなど、工夫が必要」などと述べた。

「電波だって、いつもつながるもの、などではない」(総務省・石黒氏)

 ここまでは技術・サービス 分野をテーマにしていたが、ここから運航管理そのものをテーマにしたディスカッションに切り替わった。1本目は「最新の通信・計測技術~安全な運航を支えるためには~」。国立研究開発法人情報通信開発機構(NICT)の三浦龍上席研究員(ワイヤレスネットワーク総合研究センター上席研究員)をモデレーターに、基調講演をした総務省の石黒氏、工学院大学の羽田靖史機械システム工学科准教授、NTTドコモの原尚史担当部長(同社イノベーション統括部事業創出・投資担当)、アミモン・ジャパン株式会社の飯塚国明カントリーマネージャー、株式会社構造計画研究所の小松明子氏(新領域企画マーケティング部)が登壇した。
 石黒氏は「ドローンのスクールや事業を展開している人ほど、〝ドローンは落ちるもの〟と常に危機意識をもって対応している。電波も確実につながるもの、などではない」と電波の特性について理解を求めた。
 NTTドコモの原氏は「セルラードローンによって、より簡単に、より広範囲に、よりリアルタイムに、より安全に、より多くの機体を、という利用者が求める可能性を広げる」と発言。またセルラー通信の上空利用については「地上の通信品質が劣化しないかどうかなどを現在調査している」など、現在の取り組み状況を説明した。
 続く「空域管理:ドローン空域の交通管理~目視外飛行の実現に向けた課題と展望~」がこの日最後のパネルディスカッションで、特別講演に登壇したJAXAの原田氏がモデレーターを務めた。
 ステージには、基調講演に登壇した国交省の三輪田氏、株式会社日立製作所の大浦真氏(情報システム本部応用システム設計部技師)、テラドローン株式会社の金子洋介事業戦略本部長、樂天株式会社の陰山貴之氏(インキュベーションオフィスドローンプロジェクト推進課事業開発マネージャー)、全日本空輸株式会社の信田光寿氏(整備センター機体事業室機体技術部フリート運用技術チーム)、中日本航空株式会社の丹羽政晴氏(事業本部航空仮センター運航管理室長)、有人宇宙システム株式会社の伊巻和弥氏(宇宙事業部宇宙調査開発グループ主幹)、一般財団法人日本気象協会森康彰氏(事業本部 環境・エネルギ-事業部副部長)がズラリと並んだ。
 日立製作所の大浦氏は「人とドローンが共生する上で、社会の受容性は極めて大切。社会から拒絶された産業は衰退する」と問題を提起した。またANAの信田氏は昨年10月に福島県南相馬市で行われたJUTMの実証で運航管理責任者であるチーフコントローラーを務めた経緯をふまえ、「課題は使用言語、飛行高度、緊急時の定義、非常時の着陸養成などがあがる。言葉については、実験前に同じ意味で使えるよう用語を統一したつもりではいたが、運用してみると統一できていなかったと感じる」などと述べた。
 またドクターヘリを全国に配備している中日本航空の丹羽氏は、「ドクターヘリからはドローンはまったく見えない。ドクターヘリが飛ぶさいには、そこにいるドローンには高度を下げてもらわないといけないと思っている」と述べた。日本気象協会の森氏は、ドローンの事故で気象が原因で発生したものは全体の20%。これを0にしたい」と話し、ドップラー・ライダーなどの活用などを活用した現在の取り組みを紹介した。
 午前10時からはじまったシンポジウムは休憩をはさみ、午後6時まで続いた。それでも会場を埋めた参加者の多くは最後まで聞いたうえ、大半はその後の懇親会にも参加するなど盛り上がった会合となった。

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