【磨棒鋼、CH線などの運送現場】「運賃」と「付帯業務料金」を区別化 運送コストや労務環境、改善機運が高まる

 自動車関連向けが多い磨棒鋼や冷間圧造用(CH)鋼線などの鉄鋼製品を運送する現場で、労務環境が改善する機運が高まっている。

 昨年11月、国土交通省が制定するトラック事業者と荷主の契約書のひな形である「標準貨物自動車運送約款」が改正され、運送の対価は『運賃』、対価の範囲が不明確だった積み込みや荷卸し、荷待ち時間などの運送以外の役務業務を『料金』と明確に区別することとなった。

 運賃は「車上受け・車上渡し」が一般的だ。しかし自動車関連向けの磨棒鋼、CH鋼線の納品現場では、ドライバー自身が納入先でフォークやクレーンなどを使って搬入の荷卸しする「自主荷役」が常態化している。線材二次加工メーカー筋によると、「取引先からフォークリフトやクレーン、玉掛けなどの有資格者ドライバーを指定されることが多い」とされる。

 自主荷役が多くなった背景には、ジャストインタイム生産方式による納入時間の指定強化、それに伴い、受け入れ側のフォークやクレーンなどの備品・設備不足で待機時間が長期化しドライバー自身が自主的に荷卸しを行うケース、また以前は受け入れ側も荷卸しの作業員がいたが、退職などによる自然減により荷主側の運送会社のドライバーが荷卸しをする慣習が継承されたケースなど、さまざまな事例が原因となっている。

 運送業界の規制が強化される以前までは、ドライバーは〝稼げる花形の仕事〟として成り手は多かった。このため重量物である鉄鋼製品の輸送現場でも、ドライバー自身がフォークやクレーンなどの資格を取得して、需要が増える環境の中で荷役作業もサービスの向上として荷主らが競い合い、自動車メーカーを中心とした納入先に鉄鋼製品を運送し荷役業務を行ってきた。

 しかし運送業界の規制強化とともに、ドライバーは〝労働対価に見合わない職業〟として見られるようになり、特に重量物である鉄鋼製品の輸送現場を敬遠する風潮が強まっている。若手ドライバーである若年入職者数も伸び悩んでおり、メーカー関係者は「このままでは、自動車製造のサプライチェーンの一翼を担う磨棒鋼、CH鋼線を運送するドライバーがいなくなる」と危機感を強めている。

 また自主荷役には、荷役作業中の事故やトラブルといった労働災害も大きな問題として存在している。

 複数のメーカー筋によると、「過去には荷役作業中に死亡事故もあった」とされる。また最近でも「指定時間の深夜にドライバーが一人で納入した際、クレーン作業中に製品に挟まれて軽傷を負うなどの労災が発生している」としている。また人災だけでなく、「フォークで荷役中に納入先の設備や建屋などを損傷するケースは日常茶飯事」の様子だ。

 荷役作業の事故は、荷物の種類や荷卸しする施設・設備などが搬入先によって異なる場合が多く、施設・設備面の改善によって安全化を図りにくいことが原因にある。また荷役作業における運送業者と荷主らの役割分担が明確になっておらず、荷役作業における安全対策の責任分担も曖昧になっていることが挙げられる。

 今回の標準貨物自動車運送約款の改正では、荷役作業は『料金』として正当な労務対価に該当することとなりそうだ。対価は荷主である線材二次加工メーカーへの負担となるが、メーカーとしては納入先である取引先企業に対して、自主荷役などの『料金』を上乗せした『運賃』、その運賃を含めた〝適正な製品価格〟を提示することが望まれる。

 運送コストの増加を一方的に需要先に提示するのではなく、自助努力によるコスト削減、運送会社や納入先企業と協力して配送・調達面を含めたコスト改善を進めることが前提となる。

 しかしメーカー筋は「磨棒鋼は防錆のため油を帯びており、CH鋼線は表面傷の品質を担保するため、他製品との合積みには向かない」とされる。また自動車業界では『ミルクラン(巡回集荷)』と呼ばれる共同調達輸送で運送コストの低減、効率化を図っているが、棒線製品の特性として〝小ロット・多品種〟が多く、ピックアップする箇所も線材二次加工メーカー、部品メーカーらが広範囲に点在していることもあり、効率的なミルクランといった物流体制が構築できないのが実情だ。

 鉄鋼商社筋は「宅急便各社の値上げや春の引っ越し難民などのニュースが話題となっており、運送業界全体が改善する方向に社会的要請が強まっている。鉄鋼製品の運送、物流現場でも待遇面や労務環境の見直しにつなげる好機が到来している」と指摘する。

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