ずいぶん、ゆるい

 訳ありの男女4人が共同生活をしている。いい年をした大人たちがある日、食卓で“唐揚げ論争”を始める。会話劇の言い回しが印象的な脚本家、坂元裕二さんが手掛けたテレビドラマ「カルテット」に、どこか感興をそそるシーンがある▲一皿の唐揚げに1人が断りなくレモンを搾ってかけた。レモンを“かけない派”の、高橋一生(いっせい)さん演じる男が声を荒らげ、異議を唱える。〈唐揚げ、洗える? 「レモンする」ってことは不可逆なの。二度と元には戻れないの〉▲なるほど、かける派と、かけない派と。当方は別に“こだわらない派”だが、かけない派の言うことも、まあ分かる。いきり立つほどではないと思うが▲異議を唱える人もなく、難なく手が加えられたとしたら、お役所の公文書の改ざんくらい「唐揚げにレモン」より、よほどたやすい所作だろう。「森友文書」の書き換え問題は収拾の気配なし▲誰の指示か。何のためか。政治家の関与は。責任者は身をどう処するか。凝視すべき点ならば幾らもあるが、そもそも決裁文書を300カ所もちょいと書き換えられるとは、国の機関もずいぶん“ゆるい”。罪に問われておかしくなかろう▲国会も国民も甘く見られたというほかない。一度なくした信頼は不可逆なの、元に戻らないの。いきり立つ場面である。(徹)

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